第2話-3
真剣でやりやった後は、二人で近くの川へ行き体の汗を水で流し、やっと家に帰った。まだ暑い夏だから、水に浸るのは、水遊びみたいで何歳になっても面白いもので、子供のようにはしゃげるのだが、冬はなにかの修行なのかと思うほど体温をとられる。ただ、冬はそんなに汗を流さないため、体を刺すような水風呂につかることも少ない。
「ただいまー」
ケンヤドシの大半の家は、竪穴式となっていて、癒えの中に入ると、少し地面が低くなっている。そこに、女子供が作った絨毯をしく。絨毯は幾何学的な模様をしている。模様や色は民族によって、なんとなくだが特徴がある。ケンヤドシでは、よく赤色を用いられるが、ヤリヤドシでは藤色、ユミツカイは晴天の空のような青色・・・・・・。
多くのムーンの民族が集まって行われる定期戦は、様々の民族の多種多様な服が見受けられる。
服装はもちろん様々なのであるのが、どの民族にも共通していることがある。それは首元だ。ケンヤドシでもヤリヤドシでも、どこの民族でも共通して、首元に布をまく。この文化がムーンに始まったのはいつからなのかはわからないが、首を守るためというのが通説である。しかし、これには少し疑問がある。それはいつでも首元に布を巻いていることだ。首元を守るだけならば、戦うときだけでいいのではないだろうか。日ごろ、生活をしていて、命の危険を感じるようなことはない。なぜ、平常時も首元を守る必要があるのだろうか。
「おかえり、ユエ兄!」
二つ年下の妹・コリーアがかけよってくる。もちろん俺は拾われっ子なので、コリーアとは血はつながっていないのだが、本当の妹だと思っている。コリーアも俺に対して、本当の兄のように接する。コリーアに限らず、家族みんなが俺を本当の家族として扱ってくれる。
コリーアの細く長い髪をぐしゃぐしゃと撫でると、彼女は笑う。
「やめてよー、ユエ兄」
透き通った綺麗な声は、笑うと小鳥の美しい囀りのようだ。
「今日の夕飯はなんだ?」
「今日はねー、コリアが捕まえてきた魚を焼いて食べるんだよ」
コリーアは自身をコリアと呼ぶ。
「コリーアが捕まえてきた魚なら、大して美味しくなさそうだな」
俺の冗談にコリーアは頬を膨らます。また、それが愛らしい。実際に沢山の同い年ぐらいの男の子からよく告白されているようだった。
ケンヤドシの少女達は、大体十四歳ぐらいから結婚をする。人によって、もう少し早い子もいるのだが、大体それぐらいだ。まだ、コリアは十三であるが、そろそろ相手を見つけてもいい頃だろう。兄としては寂しいが、コリーアのためにも、このことについて少しずつ話していったほうがいいのだろう。
・・・・・・と、自分のこと、偉そうにコリーアの将来について考えているが、俺自身、見ての通り、妻などはいなかった。まあ、俺のような変な奴をもらいたがる女はなかなかいないだろう。
木を切って使いやすい高さにし滑らかにした天然の机に、魚や野菜、米がおかれる。ケンヤドシでは、水が豊富にあるため、稲作に適していた。
稲作をするために、村には時の番人と呼ばれる、イタムがいた。イタムは、村の東のほうに建てられた時の神殿へといき、種上の次期や収穫の時期を見極める。神殿と言っても、木の集まりで、誰でも時の神殿へと行くことはできるが、どうやって時期をそこから知るのかはイタム以外は誰も知らなかった。イタムは常にある一族から選ばれていた。
「んっ。この魚美味しいな。誰が釣ったんだ?」
「だから!コリアが釣ったのっ!」
「本当かー?お母さんが実は釣ったんじゃないのかー?」
「違うもん!ねっ、お母さんっ!」
コリーアに急に話を振られたお母さんは苦笑いをする。
「そうだね。コリーアが釣ったね」
お母さんはユリーアといい、髪の毛は少しうなっていたが、端整な顔立ちをしていた。
お母さんの料理はとても美味しかった。商人から買う調味料と呼ばれるものを上手い具合に使い、より食べ物を美味しくさせていく。俺とコリーアは、お母さんの手は魔法だと思っている。
「今日も、ユエナは誰かと戦ってきたの?」
「うん。今日は、ユヅレと少しね」
「それでそれで?勝ったのっ?」
コリーアが期待をこめた目で見つめる。
「今日も引き分けだったよ」
俺の言葉に、コリーアはあからさまに残念そうな顔をする。
「なーんだ。ユエ兄勝てないのか」
コリーアは、いつも俺が勝てないとちょっと拗ねたような態度をとる。最初は、お母さんもその態度を注意していたが、今では何も言わなくなった。諦めたのだろう。
「ところで」
俺は拗ねた妹の頭に手を置きながら、話を変えた。
「まだ、父さんは帰って来れないの?」
「うーん、そろそろ帰ってきてもいい頃なんだけどね」
三日前から父さんは狩りにでかけていったきり帰ってきていない。これまでに、こんなに父さんが帰ってこないことはなかったので、お母さんは不安で堪らないらしい。それは、俺やコリーアにとっても同じであるが、それ以上にお母さんにとっては辛いようで、声が少し沈んでいる。
「きっとお父は、今頃道に迷ってるんだよ!」
コリーアは少し沈んだ空気を少しでも明るくしようとする。コリーアのそのちょっとしたくだらない冗談が、安心感を与えた。
「そうね、お父さんだもんね」
「父さんなら、ありえそうだな」
コリーアのもくろみ道理、雰囲気は明るくなった。
暖かな、柔らかな、そんな雰囲気がいっぺんするまでの時間は刻々と迫っていた。一度流れ出した砂時計は、全て落ちるまでは止まらないのだ!
「あ!ねえねえ!」
コリーアは急に思い出したように声を上げる。ちょっと裏返ったコリーアに俺とお母さんは笑う。
「馬鹿にしないでよ!・・・・・・って、そんなことはどうでもよくてね、商人が来るんだって!」
「あら、そうなの?」
お母さんは、まだ、商人が来るということを耳にしていなかったらしく、朗報に頬を緩ます。
「ああ、今度の満月の日にくるそうだ」
「そうだったのね!それはよかったわ。丁度、食料も減ってきたところだし、また、沢山買いだめしておくしかないわね」
いくら稲作をしているとは言えど、一年中実がなるわけではないので、蔵に保存をしているが、それでさえ限界がある。やはり、商人の存在は大きく、大量の米をも売る彼らから、何ヶ月か分の米を買っている。
彼らがいなければ、確実に生活は困難となるだろう。
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