推理の終わり

瀬川

推理の終わり


「……あなたが犯人ですね。」


 私の言い終えると共に、目の前の彼女の体は崩れ落ちた。


「あなたの言う通りっ、私が殺しましたっ!」


 涙を流して自分の体を抱きしめる姿は、庇護欲を誘う。しかし彼女は、今回の残虐な殺人を犯したのは間違いない。

 周りにいた人達も少し固まっていたが、すぐに覚醒して警察が彼女に近づく。


「行くぞ。」


 そして自力で立ち上がれない彼女を引っ張って、そのまま部屋から引きずり出した。

 私はその姿を見送りながら、大きく息を吐く。


 良かった。


「いやあ!お見事でしたな!」


 安心していると、背中を強く叩かれた。

 私は驚いて咳き込みながら、後ろを見る。


「あ、ありがとうございます。」


 今まで私を色々と手伝ってくれた、助手の五十嵐さんの姿がそこにはあった。

 私は軽く礼をする。

 そうすれば豪快な笑いと共に、彼は隣に立った。


「最初はあんたのこと疑って、本当に悪かったよ!」


 つい数日前の、暴力行動をすっかり忘れてしまっているようだ。

 私は未だに痛む全身に、内心で苦笑してしまう。


「俺もあんたを手伝えて良かった!これからも、何かあれば連絡してくれよな!」


 また何回か背中を叩かれて、そのままドタバタと彼は去っていった。

 最後まで慌ただしい人だったな。嫌いではなかったが。


「……それでは私も失礼致します。」


 私はもう自分の役目が終わったのを確認すると、部屋に残っていた人達に頭を下げる。

 その中には、私に好意を抱いていたであろう天音さんの姿もあったが、あえて声はかけなかった。


 たぶん、もう会うことは無いだろう。



 部屋を出た私はその場から少し歩くと、周りに誰もいないことを確認して、一気に脱力した。



「あー、焦った。」


 慣れない敬語キャラは、俺の精神をものすごく疲れさせた。

 しかしあの時は、こうするしかなかったのだ。


 俺は頭をガシガシとかいて七三分けを乱すと、伊達眼鏡も外した。


「あんなの、もう二度とごめんだな。」


 それにしても本当によかった。

 もし実は探偵じゃないとバレていたら、捕まっていたのは俺だっただろう。


 俺は大きく息を吐くと、その場から静かに立ち去った。


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推理の終わり 瀬川 @segawa08

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