見覚えのある世界で

朝チュンからの二回戦とは――



 夢でも見ていたかのようだ。

 だが、それがどこからどこまでであったのかは分からない。


 身体が重い。全身が、全力の意志でなければ命令を受け付けないような状態――。そんな現状に、私は身を置かれていた。

 酔っているのか? 酒を飲んだ覚えはないが……。

 いや、寝ていたのか……。意識にまとわりつく気だるさと、瞼に貼りつく重さがそれを物語っていた。


「んんっぅ……」


 なんだか艶っぽい吐息と、ひと肌のような柔らかさを感じる。

 何だ? なにがなんだかよく分からないな……。

 気だるさとも、生命としての本能ともいえる眠気に抵抗し、わずかずつ開いた私の目には、理解に苦しむ光景が映し出されていた。


「んっ……んぁ……っ」


 寝息。いや寝言か? いやこの際それはどうでもいい。寝息を立てるパトリシア……いや、全裸のパトリシアが私にもたれかかっていた。


 女性特有の柔らかさを肌で感じる。同時に、私自身の状態も認識するに至る。

 裸だ――。

 肌に直接触れる風が、それが思い違いではないと知らしめる。


「えーっと……」


 途端に目は覚めた。日差しが眩しい。野外? 何故野外で全裸? そもそも何故全裸で野外で寝ている? そんな記憶はないな、たしか記憶では……。

 思いつく限り、私は記憶を辿ってみた。

 こうなる直前は、たしかC隊の隊長室にいたな。その後部屋の隠し通路を見つけて……。

 いや待て待て。全裸で野外にいる現状、気にするべくは、何故こうなったかではなく、これからどうするかではないだろうか?

 思考も上手く回らないな……。いや、当然か。こんな状況で最適解がパッと浮かぶ者などいまい。


 えーっと。お使い帰りに、C隊の隊長室で隠し通路を見つけた私は、その隠し通路の奥で行方をくらませたセシリア隊長を見つけたが、彼女を起こそうとしたら気を失った。そして目覚めたら、連れのパトリシアと共に全裸で森の中……。まったくわからない。何かあったにしても、その行程の記憶がない。


 急な意識の消失。気付けば知らない場所。拉致。

 全裸。身ぐるみを剥がされる。手荷物に金目のものは無い。女。野外。

 考えたくはないが、それらから導き出される結論といえば……強姦だろうか?


「うう……っ」


 気味が悪い。もしそうだったらと、言い知れぬ不安が身を包んだ。

 恐る恐る、秘部に私は手を伸ばす――。

 希望的観測と、精一杯にひり出した、現状に基づく推測が拮抗するのを感じる。

 何がとは言わないが――『それ』が指に触れた瞬間、私は、安心の意を含むため息と共に安堵した。


「ふぅ……」


 ひとまずはそうではないようだった。

 だが安心もつかの間、また別の問題に直面する。


「何しているんですか仁義さん……」


 ひどく冷めた言葉が傍で聞こえた。

 自分でも十分にわかるくらい、必要最低限な動きで、声のした方へ視線を移すと……案の定、軽蔑の意を含む目で私を見るパトリシアがいた。


「あっ……えーこれは……」


 まずいまずいまずい!! 絶対何か勘違いしてるよこれ!? いや当然か。経緯はともあれ、目覚めたら全裸で、傍には全裸で股間を押さえて吐息を漏らしている者がいれば何を想像するかは想像に難くない……。いや分析はいい。何とかして釈明しないと……!!

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