第11話 風子 小料理屋をする

少し話を元に戻して、風子が保険勧誘を始めてから間もなく、貯金ばかりでは面白くないのに気が付いた。有効利用しなくては!と、考えるようになっていた矢先、


 たまたま、街の飲み屋に営業の積りで行った時、隣に座って静かに飲んでいる中年の男性がいた。隣同士になったので、会釈の積りで、話をしているうちに、その男、飲食業をして資金繰りが思わしくない、もうこんな仕事辞めたいと、話し出した。


 「じゃあ、私が買ってあげるよ」風子が云った。男は「エッ」と、云ってから、


 「お姉さん、冗談はよしてくださいよ」と、その男は云った。


 「冗談でこんな大きな話は云えないよ!」と、風子も云った。



 お金を持ち過ぎている風子は、繁華街に一つぐらい不動産を持つのもいいなあ!

と、考えていた時であった。偶然かも知れない。


 そして、この人のよさそうな男を助けてやろう……とも考えたのである。


 ひらめきチャンスかも知れない。


 「実際見ないといけないから明日物件を下見に行くわ」と云うと、男は驚いた。


思った通り、飲み屋街の一角に5坪ばかりの土地付き建物が思ったより安かったので、その場で手付金を支払った。男はハトが豆を飲み込む時のような顔をして驚き喜んだ。


 風子は別に飲み屋をしようと思ったわけでもなかったから、しばらくはシャッターを閉めたままにしていた。


 そして、入院して退院、会社を辞めた後、ゆっくりしていたが、思案のしどころでもあった。この辺りで全く違う仕事もしてみたい!やってみよう!


 ちょうど手に入れた建物を利用することを考えた。


そうだ!ちょっと変わった特徴のあるお店をしてみたい。考えたら実行に移す!


新鮮な魚料理だけの小料理屋「海山」をオープンした。


 板前は従弟で免許を持っている実君が来てくれたので、これも助かった。


風子は皿洗いと営業をした。


 なぜ、皿洗いか、と云うと、板前に直接責任を持たせるのが一番良いし長続きがする事を知っていたし、客の様子が黙っていて分かる。


 営業は全面的に風子がした。


 いとも簡単、第一今までの保険会社での名刺がざっと3000枚もあった。案内を出したところ、初めのうちは、たった5坪の店に10人座るか座れないところに、わんさと客が集まって来たからたまらない。

 入れなかった人が怒って帰った人もいたが、住所だけは確かめて後から電話などして手土産持って行くとさらに近しくなっていく。


 それからは、新鮮な魚料理に必ず味噌汁が付く店、と云うことで評判になり客が客を呼んでいった。一夜は長い、客は何回転もした。


 建設関係、保険会社での関係、いずれも今まで勤めていた所の関係が実を結ぶことになっているのだから、自分の手の中のようなものである。

 また、情報関係も迷惑にならない程度には出来るし、第一、小さい食べ物屋で掛けで食べる人はまずない。 掛けがないからお客さんは安心して来ることができる。


 小銭は大銭になるそのものである、の教訓である。


 お店は予想通りに繁盛した。



 ある時、内川の同級生で椎名と云う男が大阪から帰って来てお店に来た。羽振りがよさそうだった椎名という男は語った。


 「風子さん中竹工務店に勤めはったんだって?相談に乗ってくれへんかな?」


 「何故?私になの?内川に相談すればいいじゃないの?同級生でしょうが」


 「いや、あんたの評判、聞いたんや……皆に、ようけ世話したはるんと云うてたで?

旦那より話をよう聞いてくれはるし、その道のベテランだと」


 「………そんなこと、良く云うわ」


 「建設業やりたいんや、金なら、ようけ稼いだから大丈夫、段取り手伝ってもらわへんか?風子さんにお願いしたいんや、宜しいやろか」


 宮崎では特に目立つような関西なまりで威勢よく話して、それでも一応頭を下げた。


 何故、同級生の内川に相談しないで私に相談したのだろうか?お店のママさんで話し易かったのだろうと、解釈したようだ。


頼まれると、分がありそうと判断如何によっては、あらゆる知恵を絞って協力してみる前向きな性格な風子である。


 風子は、今までの経験(建設会社、保険会社、取引銀行)等で慣れたもので、土地を世話したり銀行や手続きの方法を教えたりした。手数料お礼も十分貰った。


 次は「職人さんはいませんか?」と云うので、これも建設業に必要であろう業者を、27社くらいを紹介した。

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