第2話  不思議な父親と母親

元気な鳥丸風子は物心ついた頃には何かしら不幸が始まっているようであった。


地域地区(今は街)で指折りの農家の資産家であっても、幾通りの不幸というものがある。


それは、大所帯家族の中での不幸で、母親のフミを見る時であった。


大所帯と云うのは、祖父母から父親の兄弟、姉妹、従姉など、いろいろな繋がりの親戚が集まって、多い時は14人も寝起きしていたから小さい風子には数えきれない。


その中で、風子は母トメが家族のみんなから、うとんじられ、姑からは嫁いびりというのか、いじめられている様子をいつもみていた。


家を取り仕切っているのは、祖母のフミで、風子にとってはばあ様になる。ばあ様はいつも着物姿でシャキッとしていた。農家でありながらクワを持ったことが無いばあ様だった。


 ばあ様の長男義夫(風子の父親)は、教育を受けていたので、田舎にはそぐわない良い恰好をしていた。 

 

母親のトメの里は農家で兄姉が9人もいた。代々皆が農業であり、末っ子のトメは学校嫌いもあってほとんど学校に満足に行かなかったらしく読み書きが不自由であったようだ。


あまりに育ちの違う父と母が夫婦になったこと自体不思議である。


それでも、子供は生まれた。風子と3人の兄弟がいたし、母のトメは、農作業しか出来なくても農作業が上手かったので農業をする働き手として父はトメと結婚させられたのだと思っている。


家の中には、ばあ様の妹や父親の妹などがいて、生まれたこどもは,すぐ母親のトメから取り上げるようにして曾祖母や祖母や叔母などが面倒を見るようになっていた。

 「子供は家で看るから、トメは沢山働きやんせ!」ばあ様の一言である。


 トメはいつも牛馬と同じように、ただ黙って働いていた。それはトメにとって苦労ではなかったのである。むしろ義理の母や義姉妹と話さないで良いから田畑の方が気楽だった。 朝早く農作業の畑に行くため家を出ているので風子はほとんど顔を合わせることは無かった。


 トメは昼に食事の為に家に戻ってくるが、皆の残りを遠慮しながら土間の隅で食べていた。風子はそんな母親を見て、


 「お母さん、何でそんな所で食べているのね・・・こっちに来て!」


 「うん、構わんで!すぐ畑に出るとだからここで良いと!」と、トメは怒ったように言うので、風子は間が悪かった。側にいた皆からもジローと睨まれているように感じた。


ばあ様も、叔母さん達もみんな話もしなかった。そのような事があってから、風子もお母さんとは話をしてはいけないだろうと思い、なるべく話さないようにしていた。


 トメが仕事の為に出ていくと、待っていたように、叔母さん姉妹達がフミの悪口を言いだした。何故だろうと、風子は不思議だった。


 トメはいつも太陽が沈んで人の顔が分からないようになってから家に戻って来た。


 勿論、朝晩の炊事など嫁でありながら任せてもらえず働くだけで、お金など持ったことがなかった。ばあ様が家の事一切を喜々としてやっていたからだ。


 風子にとって、母親のトメが、家族の者に隠れるようにいつもコソコソしていたような記憶だけが鮮明に残っている。


 家族でみんなに気を遣いながら過ごすと、母との距離は出てくるもので、家を取り仕切っている祖母や父方の姉妹や親せきの前では、母親の悪口だと分かっていても、ただ、こっくりとうなずいていた。そうすると、家族みんなの仲間に入れて可愛がってくれたようである。

 

何と変なお父さんとお母さんなのだろうと、いつも思っていた。


学校にも満足に出ていない母トメは、漢字などほとんど読めないが、時々流行歌を小さい声で歌っていた。夕焼けの綺麗な時だった。一仕事終えた母が家の近くの川でクワやカマの手入れをしながら歌っていた。上手かった。


 父親の鳥丸義夫は地元の農学校を出ていたので本を読み、新聞を読み、インテリであった。学校の参観日はいつも父親が来ていた。


父は母の事を「君ねえ~それ、違うんじゃないの?」などと云っていた。それに比べて母トメは父義夫に向かって「どうせ、わいは、ドン百姓だったからな!ないも分からんがな!」などと、口汚い言い方をしていた。


 父は良くこの母で我慢したものだ……と、いまだに、風子の内面では、夫婦のこれまた不思議な一面をみることになっていた。


 父の義夫は農家の長男であるが、頭が良く、田舎では上級学校を出たばかりに、営林署勤めのサラリーマンになったが、風子が中学三年生で高校受験を控えていたころ、勤めていた営林署を突然辞めた。

 

有志仲間達と木材媒介の仕事を始めたのである。

 

 資産家の大農家でボンボンと云われていた世間知らずである。そんなに世間は甘くない!

 お決まりの「友人の保証人」になり一夜にして財産を全部無くしてしまったのである。

 その友人達と云う一人は後々に宮崎市長にまでなっていた。


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