第23話 勇者の活躍と魔王の戸惑い
こんな小娘に何が出来る。負けたらこんなチビはさっさと殺して次の勇者を召喚しよう。
もっと強靭で体格に優れた見ただけで魔王を震え上がらせるような猛々しい勇者を召喚するのだ。
そう思っていたアレックスの心配は全くの杞憂と消えた。
魔王の本拠地からは遠く離れた辺境の村。それ故に敵も弱かったのだが、それでも少女にとっては恐怖に竦みあがる強敵だったはずだ。
アレックスも目立たないようにすぐに逃げる準備はしていた。
だと言うのに、少女はたった一人で魔王の軍隊に挑んでいった。
正面から堂々と。これを勇気があると言うのだろうか。
アレックスには信じられなかったが、信じられないのはこれからの光景の方だった。
未熟ではあるもののそれなりに訓練は受けたと思われる大人の兵士達の剣を軽々と受け止め、小羽はまるで踊るように戦場を駆け抜け、次々と敵を打ち倒していく。
「なんでこんな子供に!?」
「やっちまえ!」
一斉に掛かっていく乱暴な兵士達に少女は臆する姿も見せず、ただ勇敢に剣を一閃する。
鮮やかな剣裁き。高く金属の音が鳴っていく。
敵兵達は何もすることが出来ず、ただ倒れていく。
勇者の振る剣に誰も叶う者はいなかった。
これは戦争などではない。勇者を称える舞台劇だ。
そんな興奮にアレックスは見惚れ、手に汗を握っていた。
最後の敵兵を足で蹴り倒し、小羽は剣を収めた。
「これでこの辺りは全部終わったかな」
「あ……ああ」
彼が気が付くと、戦闘は終了していた。
もっと見ていていたかったが、敵が弱すぎたのだ。
敵の不甲斐なさを残念に思うのは筋違いだろうか。
全滅した敵に対し、小羽は全くのノーダメージで、その姿は綺麗な物だった。
まるで戦場に現れた神話の戦乙女のようではないか。
アレックスは歓喜に拳を固めて少女を称えた。
「素晴らしい! お前こそ魔王を倒せる伝説の勇者だ!」
「うん!」
王子からの賞賛に小羽は無邪気に頷く。その幼い少女の顔が何かに気づいた。
不意に横から来る思念。小羽は手を横に向けた。
勇者の力で魔を弾く。少し感じた自分の掌を見つめて小羽は何となく思った。
「魔王か……」
自分はおそらく挑戦状を受け取った。
攻撃的な念波か何か分からないが、明らかに自分を目標にしていた。
まだ見ぬ戦いの予感を感じながら、小羽は次なる敵地へと歩みを進めた。
俺は空から城下町の中心にある大通りへと降り立った。
昼のこの場所は商店が軒を連ね、公園や観光地なんかも近くにあって、人で賑わっている。
この場所に戦いに出たことはあっても遊びには出たことのない俺には、まだ見たことのない町の姿だった。
さて、住民に何と声かけをすればいいだろうか。
俺は小学生を相手にした時とは違った意味で迷ってしまうのだったが……
「魔王様!」
「ハハーッ」
通りを行きかっていた人達は俺の姿を見るなり、すぐに集まってきてひざまずいてくれた。
みんなに頭を下げられて何だか偉くなった気分の俺。魔王でありながら殿様になったような気分である。
「みんな、俺のことを知っていたんだな?」
「当然でございます。魔王様のことを知らぬ者などこの国にはおりません」
「ふむ」
有名になるのも悪くない。プライベートで出かける時は変装しないといけないなとか考えてしまう。
まさに有名人になった気分。
ちょっと偉そうにふんぞりかえっていると、住民の一人が顔を上げて訊ねてきた。
「このたびは何用でいらしたのでしょうか?」
俺は何と話しかければいいのだろうとちょっと前まで考えていたのだが。
何と向こうから話題を振ってきてくれた。超ラッキー。
魔王らしく言うなら僥倖。思いがけない幸運と言ったところだろうか。
「ふむ、そうだなあ」
俺は思わせぶりに考える仕草を見せてから……どうやって小羽のことを説明したらいいのか考えてなかったのに気が付いた。
俺に口だけで女の子の特徴を伝える話術を期待しないでください。髪型とか服装とかあれ何て言うんだろう。俺は小羽の正確な年齢すら知らなかった。
これぐらいの女の子? なんて説明ではおそらく通じないだろう。
写真があればなあ。と思っていたら閃いた。
俺は手の平を上に向ける。するとそこに映像が浮かび上がった。
窓から見下ろした時に目が合った。その時に見た小羽の映像だ。
あの時は一瞬のことで慌てていたし、俺はすぐに身を隠してしまったので、俺の記憶力はもうぼんやりとしていたのだが、映像ははっきりと彼女の姿を映し出していた。
小羽ちゃんってこんな顔してたんだな。俺は改めて記憶に刻む。
異世界で使えるスキルすげーなんて感動は億尾にも出さず、俺は魔王らしく威厳を持って言った。
「この娘を探している。見つけたら俺に報せて欲しい」
「この娘が何かしたんですか?」
町民が驚くのはもっともだろう。魔王がまだ幼い子供の少女を探しているというのだから。
俺は迷ったが、言った方がみんなが真剣に探してくれると思って言う事にした。
「この少女は勇者と目される人物だ。奴は愚かにもこの魔王を倒そうとしている。その力はおそらく俺と同等だ。見つけても手を出すな。ただ報せてほしい」
「この少女が魔王を倒すって?」
「おお、なんてことだ。こんな日が来ようとは」
住民に広がるどよめき。俺は何だか違和感を感じた。なぜか住民が喜んでいるように感じられたのだ。
俺は藪を突いて蛇が出ないように慎重に言葉を選んで訊ねた。
「何だ? この少女が来るのが楽しいのか?」
「いえ、そんなことは」
「一刻も早く魔王様に報告できるように探します」
「おい! 早く馬車を出すんだ!」
思ったより張り切って探しに行く住民達。
見送る俺は腑に落ちない物を感じながらも、
『見つけてくれるならいいか、見つかったら連れ帰ればいいだけだしな』
そう信じて、城に飛んで戻ることにした。
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