第22話 異世界で捜索を開始する
俺の部屋で、ヒナミとフェリアとセレトの三人が協力して召喚魔法の儀式を行う。
出かけるとあって三人とも元の異世界の学校の制服に着替えていた。着替えの間はもちろん俺はさりげなくトイレに避難していましたよ。
魔王としての威厳を損ないたくは無いからね。ちょっと悲しくて涙が出そうな感じがするのは何故だろう。
自分は正しいことをしているはず。そう信じて今に意識を戻す。
やはり世界の壁を越えようと思うと、それなりに大がかりな儀式になるようだ。
俺には召喚術の知識なんてまるで無いので、黙って三人のやる事を見ているしか無かった。
向こうの世界の俺なら世界の壁なんて簡単に飛び越えられるが、これじゃ用も無いのに気軽に帰れとは言えないよな。
「行きます!」
「おう、やってくれ」
ヒナミの言葉に答える俺。召喚部の少女達が杖を振り上げると光が溢れ、魔法陣が出現する。
ちょっとした浮遊感。
気が付くと俺達は慣れ親しんだ異世界の城にいた。
「やっぱりあの時の光って今の光と同じですよね」
「ああ、俺にもそう見えた」
ヒナミが言っているのは町の遠くに見えた小羽ちゃんが巻き込まれたと思わしき光のことだ。
俺もそれを意識していたので分かった。光の違いなんて俺は知らないが、同じ光に見えたのは確かだった。
「誰かが勇者の召喚を行ったんでしょうか」
「さあ、それは俺にも分からない」
フェリアがいつになく真面目な顔をしている。俺が勇者について無い事ばかり過剰に言ったせいで。
「倒す」
「倒さないでよ」
セレトの言葉に俺は答え、続けて慌てて付け足した。魔王らしく威厳を出して。
「勇者の相手をするのは魔王の務めだからな。お前達は見つけても手を出すんじゃないぞ」
「はい」
「分かりました」
「魔王様に従います」
「うむ、よろしい」
これで三人が小羽ちゃんと出会っても不用意に喧嘩をすることはないだろう。
さて、この世界に来たものの召喚に巻き込まれたらしい小羽ちゃんをどう見つければいいのだろうか。
俺にはこの世界で他に召喚術が使える奴の心当たりが全くない。かと言って、何もしないうちからヒナミ達に教えを乞うのも何だかかっこ悪い。
とりあえずサーチしてみることにした。俺はスキルなんて知らないが、この世界なら都合よく言う事を聞いてくれるはずだ。
隕石や炎や雷だって起こすことが出来る。サーチぐらい余裕だろう。
目を瞑ってそれっぽく意識を集中する俺。適当にやってみたが外の景色が見えてきた。
さすが異世界。都合がいい。そのまま小羽ちゃんのところまで連れていってくれ。
俺は調子を良くして、さらに意識を飛ばそうと試みるのだが……
バチイッ!
急に何かに弾かれたように戻されてしまった。目を開く俺。
何だろう今の感覚。異世界で都合のよくないことが起こるなんて初めてで俺はびっくりしてしまった。
ヒナミ達が心配そうに見ている。
「どうされました? 魔王様」
「何かあったんですか?」
「いや、どうもちょっとズルをしようとしすぎたようだ」
いくら都合の良い異世界でも横着は駄目と判断されたのだろうか。
スキルで見つからないなら、足で見つけるか。
俺はそう思って外に出ることにした。
「ちょっと外を見てくる。お前達はここで待っていてくれ」
三人に言い渡し、俺は浮遊して天井をすり抜け、城の上空へと飛び上がった。
異世界でもこれぐらいの融通ぐらいは効かせてくれるようだ。俺も出来るという確信があったからやったんだけどな。
人が歩いたり走ったりを普通に行えるように、魔王である今の俺にとって空を飛べるなんて出来て当たり前の普通のことだ。
空から下界を見下ろす。真下にはさっき出てきたばかりの城の屋上が見える。
「城の屋上って結構広いんだな」
ヒナミ達を誘って弁当を食べるのに良さそうだ。昼休みに女の子達と昼食か……まあ、今はそんなことはどうでもいいか。
人探しをしなければ。早く小羽ちゃんを見つけて文乃ちゃんを安心させてやりたい。
俺ってチョロインならぬチョーローなのだろうか。そんなことないよな?
人として人を助けたいと思うのは当然のことだと思うし。
「町は向こうか」
言い訳をほどほどにし、俺は周囲を見る。
城を少し離れたところに城下町があるのが見えた。
この国を攻めた時や他国から攻めてきた軍隊と戦った時に通ったが、あの時は住民はみんな避難していたので、人付き合いの苦手な俺が活気に賑わう町に出たことは無かった。
「情報を集めるならやはり町だよな」
リアルの俺に知らない人に物を訊くなんて無理な相談だったが、ゲームでなら町の人と話すなんてお手のものだった。
前に立ってボタンを押すだけで情報を教えてくれるんだもの。
異世界だから大丈夫と自分に言い聞かせ、
「待ってろ、文乃ちゃん。すぐに小羽ちゃんを見つけてくるからな」
俺は軽いクエストを受けたゲーム気分で、近くの城下町へと飛んでいった。
俺は甘く見過ぎていたかもしれない。
勇者のことを。そして、自分自身である魔王のことも。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます