第11話 ヒナミとお出かけ

 そんなこんなでアニメを見ているだけで午前中が終わって昼になった。

 腹が空いてきたので、俺は膝の上で寝ているセレトを寝かせて昼食を買いに行くことにした。


「じゃあ、俺はスーパーに行くから。うーん……」


 セレトは寝てるし、ヒナミとフェリアを置いて一人で行くのは家が心配になるし、二人同時に外で面倒を見るのも大変そうだ。

 部長のヒナミに教えておけば、後は上手く取り計らってくれるだろう。

 俺はそう判断して、ヒナミだけを外に連れていくことにした。


「ヒナミ、一緒に来てくれるか?」

「はい」

「フェリアは留守番を頼むな。怪しい奴が来ても上げちゃいけないぞ」

「分かりました」

「留守の間はそうだな……この携帯ゲームで遊んでおけ」


 ゲームを起動してフェリアに渡す。彼女はすぐに熱中して遊び始めた。

 この子ちょろいな。ゲームを遊ばせてやるからついておいでと言われると行ってしまいそうだ。

 さすがにそこまで子供ではないだろうが。

 そんなことをちょっと思いながら、俺はヒナミを連れてスーパーに行くことにした。

 



 スーパーへの道を二人で並んで歩いていく。

 考えてみれば女の子と二人きりだ。そうと気づいたのは家を出てしばらく歩いてからのことだった。

 こんなところを誰かに目撃されたら何と言われるだろうか。

 俺は知り合いと会わないように祈る。

 中学と違って高校は通学の範囲が広いし、高校への進学で地元を離れた俺がこの辺りで知り合いと会ったことはないが。

 三人では賑やかな少女達だったが、今のヒナミは家を出てから沈黙していた。


 間が持たない!


 一人で連れ出してきたのは失敗だっただろうか。俺はコミュ症なので何て話せばいいのか分からない。

 フェリアがいれば何か明るく話しかけてくるのに。

 ヒナミも何か話してくれれば適当な相槌で答えられるのに。そう思っていると、遠くを通り過ぎる車を身ながら、ヒナミがぽつりと呟いた。


「ここが魔王様の住んでいる世界なんですね」

「そうだな」

「これから行くのはどんな場所なんですか?」

「スーパーだな。ヒナミの住んでいる世界の市場みたいなものだ」

「なるほど」

「……」

「……」


 また沈黙してしまった。自分のコミュ症が呪わしい。

 どうしようと思っていると、ヒナミが再び話しかけてきてくれた。


「知らない場所って緊張しますね。前に魔王様の学校へ伺った時はフェリアちゃんとセレトちゃんが一緒だったから平気だったんですけど……」

「……」


 俺は馬鹿だろうか。ヒナミはとても不安そうにしている。

 友達を置いて一人で知らない場所に来ているのだから無理もない。

 気づいてやるべきだった。俺はそっと手を差し出した。


「手を繋ごう、ヒナミ。大丈夫。俺がついてる」

「魔王様……はい」


 ヒナミはその手を取って彼女らしい笑みを浮かべてくれた。

 俺は安心しながら前にもこんなことがあったなと思い出した。 


「前にもこうやって手を繋いだことがあったな」


 照れくさく思いながら手を繋いで歩きながら、俺を話題作りのために言ったのだが、


「ああ、セレトちゃんと繋いでましたね」

「…………」


 失敗したようだ。自分の記憶力の無さが恨めしい。

 ヒナミは何だか喜んでいた。

 まあ、気にしてないならいいか。俺も気にしないことにして前に進むことにした。

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