止まれ!
寿和
第1話
俺、最近引っ越してきたんだけどさ。俺のうちのすぐ前の所に一時停止の看板があるんだよ。ここの一時停止、狭い道なんだけど死亡事故がすごく多いらしくて、ちょっとした心霊スポットになってるんだ。俺は、というと。バイクだし、めんどくさいし、あんまり車通らないし、実は、止まったことない。え、でも事故ってないよ。まあいいだろ?でもさ、ここの一時停止の標識、ちょっとした誤植があるのに気がついたんだ。「止まれ」に「!」が付いてて、「止まれ!」になってるの。おもしろいだろ。俺みたいなやつをどうしても止めたいんだろうな。でも効果ないぜ?俺、止まってねえもん。笑。そしたらこの間さ、その一時停止の所でまた死亡事故があったみたいで。当て逃げかな、一台車が停まってた。真っ赤なオープンカーで、だらりとなった運転手を年寄りのホームレスみたいな男が覗き込んでた。オープンカーもったいねえなって思ったけど、特にこれといって凹んでる感じなかったんだよ。やっぱり心霊スポットなんじゃね?あそこ。そんなこともあったもんで、俺はちょっと怖くなった。あそこで止まらないと、事故った時にやばいんだなって。だから今日からあそこの一時停止は止まることにした。俺以外特に車も見えないし、これといった音も聞こえない。絶対何も来てないけど、しかたない止まるか。き…。ブレーキをかけた。
…うう!?
突然胸が締め付けられる感覚に襲われた。なんだ!?俺はバイクから転げ落ちた。苦しい、胸が苦しい、なんなんだ、これは。苦しみながら救急車を呼ぼうと何とか目を開けた俺を、あの時のホームレスみたいな男が上から覗きこんでいた。おい、救急車を呼んでくれよ!心の中でそう叫んだとき、男はそっと一時停止の標識を指さした。「止まれ!」…え…あ、そうか、まさか、「止まれ!」って、俺の心臓のことか。気づいた俺を満足感そうに見て、男はうすら笑いを浮かべた。
止まれ! 寿和 @nene091
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