序章:悪夢はふたたび

ユニークな書き出しを期待する読者の失望


 その表面を我が物顔にのし歩いていたあの生き物は、もういない。

 築き上げた文明の抜け殻を残して、人類というあの騒々しい種族が姿を消してから幾星霜。

 地球は穏やかな午後のまどろみにも似た静けさの中にあった。


 しかし――。


 もし今、地球に棲む生き物の中で、成層圏の先までも見通す眼を持ったものがいれば、知るだろう。

 遠く輝く星辰せいしんの連なり、銀河の連峰を遥かに越えたはてから、この惑星に近づいてくるものがあることを。


 それは銀色に照り輝く金属円柱だった。

 あえて何かにたとえるなら、それは海百合ウミユリに似ていた。あくまでも比較的似ているというだけで、酷似しているというわけではないのだが。


 途方もなく巨にして大。

 人間がそれを見上げれば、小さなノミが通天閣を仰いだときの感動がわかるはずだ。


 神が投げ飛ばした棍のように、それは柱の一端を前方に向けて宇宙を泳いでいた。

 先端から無数に伸びる海百合の腕に似たパーツが、風にそよぐように後方へなびく。


 磨き上げられた円柱の表面は、至近距離であれば無数の凹凸が見えただろう。

 いくつもの鉄鋼が接合された跡だ。

 明らかに何らかの知性や文明を持つ存在によって造り出されたものとわかる。


 いったい何者がこの大いなる金属細工をこしらえたのか。

 それも1つではない。7つも。


 7基の海百合状巨大金属円柱は、地球を包囲するかのように移動。

 やがて月軌道上でその動きを止め、花開くようにゆっくりと腕を広げた。


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