chapter5-19:決死の計画、決行の決心!


 ◆


 ゴルド・カンパニーでのインターンシップ、その初日の労働から、俺……鳴瀬 ユウが帰宅したのは日が暮れた頃だった。

 会社を出てから、特に追手が差し向けられた様子も気配もない。

 一応は細心の注意を、と何度か遠回りをして、再三の確認をしてから怪人のアジトへ続く地下通路へと入り込む。


 ――どうも、青葉 キョウヤは俺が復讐心を抱いた一般人であると信じて疑っていない様子だった。

 反英雄組織に所属し、ヒーローを狩り続ける復讐者リヴェンジャー

 その正体が俺であるということには、ついぞ思い至らなかったらしい。

 単に気付かなかっただけか、英雄達からリヴェンジャーについての情報が共有されていないのか。

 それは分からないが、ともかく計画にとって都合のいい状況であることには違いなかった。


 ――そうして地下道を進み、ちょうど紫色の靄が現れだす頃。

 道の隅に座り込んで、俺を待つ人影があった。

 俺がそこに近寄ると、人影は立ち上がり……、


「どうだッたよゴルドカンパニーは」


 いつもの、柄の悪い口調で俺に問いかけてきた。

 そこに居たのは、ギンジと、クロコダイルを含めた怪人数人である。

 うちクロコダイル達は、当初の予定で俺と共に変身機の強奪に従事するメンバー。

 だがギンジは、なんでここにいるのか。

 ……大方、俺の様子を見に来ただけなのだろう。


 だから俺も、それを特に気にするでもなく返事をする。


「……まぁ、普通」

「ンだよその煮えきらない返事は」


 まるで、学校が楽しいかとか聞かれた気まずい親子の会話のようだ。

 などと思いつつ……俺はギンジに、ゴルドカンパニーで抱いた素直な所感を言葉にする。


「あの社長……青葉 キョウヤは、どちらかといえば英雄達ブレイバーズに対抗する立場の人間だった。あえて従順に従う素振りを見せながら、奴等の行動を制限しようと奔走している」

「……絆されたわけじゃねェよな?」

「まさか。わかってる」


 俺があまりにも奴の事を良く言うからか、ギンジは警戒の色を強める。

 まぁ、無理からぬことだろう。

 俺だって手放しで青葉 キョウヤを信じてなどいない。奴の言う計画というのも、聞こえはいいが実際のところはどうなるものか、分かったものではないからだ。


 少なくとも俺は奴の事を信用しない。

 だが、今の明確に敵対しない立場を保てるのであれば、有用だから生かしておく。

 ただそれだけ、それだけのことだ。


「もし本当に奴等同士で潰し合おうと、俺の復讐の対象であることに変わりない。邪魔をするなら容赦なく潰すし、双融機ツイン・アダプターも予定通りに強奪する」

「なら、いいけどよ。アイツは怪人達に対して敵意バリバリの、だ。お前からしたら良い奴に思えるかもしんねェが、俺の部下達からしたらどうあれ大ボスには違いねェ」

「……思っちゃいないよ、良い奴だなんて」


 ギンジの言うことはもっともで、俺は彼の不安を払拭するよう言葉を選ぶ。

 そう、あくまでキョウヤは英雄達ブレイバーズの暴走を危惧しているだけで、怪人のことは尚も脅威と認めたままだ。

 彼が英雄達の暴走を止めたとして、その先にあるのは彼が知事となった都での、統率の取れた徹底的な怪人達への弾圧だ。

 だから彼等としては、今のうちに奴を殺しておきたいとすら思っていることだろう。


 ……だが、まだ早い。



「ユウさん、奪取の日取りはいつになりそうです?」

「早ければ、明日でも良さそうではある。キョウヤは明日、明後日と会社をあけて、選挙演説のためにアオバ区からワカバヤシ区まで繰り出すらしい。それで本社から十人ほどのヒーローを護衛に回すそうだ」


 クロコダイルの問いに、俺はゴルド・カンパニーで手に入れた情報を伝える。

 社長の選挙演説と、社内に詰めるヒーロー達への動員命令は社内の誰にも見える形で周知されていた。

 なんでも社員の身内にもシンパが多いものだから、そういった情報は風通し良く伝えられるようにしているらしい。


 もちろん、10人ヒーローが抜けたところで内部に残るヒーローはまだ10人近くいる。

 並大抵のヒーローが食って掛かったところで、そう突破ができるものではないだろう。


 だが、彼等はまさか、数年前に倉庫の奥へしまい込んだきりの「双融機ツイン・アダプター」を目当てに誰かが突入してくることなど想定していない。

 ゴルド・カンパニーに侵入してくるなら、普通その目的は青葉 キョウヤ自身の命か、工業区域にある製造中の変身機かくらいのものと考えているに違いない。

 そこが、つけいる隙。



「なら、明後日のがいいだろうなァ。一日なんもない期間が空いたほうが油断するッてもンだ。だから、それまでは――」

「わかってる、それまでは真面目なインターン生を演じるさ。もう奪う物の所在は把握してる、あとは上手く、奪えるように立ち回るだけだ」


 ギンジが言い切るよりも前に、了解をする。


 狙うは一つ、記憶触媒メモリ・カタリストを同時使用できるという、禁忌の装備。

 その負荷が如何様なものなのか、それは知る由もない。


 つい先月、ワカバヤシ学園で怪人化しかけた他人の記憶触媒を使用したときには意識を乗っ取られかけたものだが……まぁ、それよりは安定してくれればいい。


 いま必要なのは、対抗する力。

 陰で暗躍しているだろうレイカ、陽の下で悪行を繰り返す英雄達。

 奴等を揃って地の底に叩き落とす、そのためならなんだってやってやる。


 ――そんなことを思いながら。

 俺は怪人たちと共に、新都地下深くの拠点へと帰還したのであった。

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