-

chapter5-11.5:NEXT STAGE THE WAITING



 ◇◇◇



 リヴェンジャー達が逃走して、数分後。

 警報が鳴り響く市街のただなか……僕、「明通イクト」は崩れ落ちるように座り込んでいた。


 貸与された変身機トランサーは粉々だ。

 記憶触媒だけはどうにか無事だったが……これだけでは、変身することもかなわない。


 そんな僕のもとに、駆け寄る人影が現れる。


『大丈夫か、フェイスソード!』

「グレイト・ティーチャー先生……すみません、やられました」


 恩人、グレイト・ティーチャー先生。

 応援要請を受けて、いち早くやってきてくれた先生は僕に手を貸してくれる。

 それを掴んで起き上がる、が。


『……浮かない顔だねぇ、君らしくもない。もしかして……手心を加えて負けたかい?』

「わかり、ますか」


 僕の気持ちは、沈み込んでいた。

 当然それは先生にもすぐに看破されて、余計な心配を与えてしまう。



「僕が交戦した怪人、人の言葉を話していたんです。それで、攻撃を躊躇していたらサーベル・ファングさんが攻撃を仕掛けて……」


 正直、信じられなかった。

 ヒーローとして、怪人を退治する。

 それは僕の中で基本的な行動原理として機能していたし、疑うこともなかった。

 いくら組織が腐敗し、ヒーローとなった人々が悪行を重ねていても。

 そこだけは……組織の存在意義として、信じきっていたのだ。


『その話は本人から聞いたよ、かなり誇張も入っているようだがねぇ。自分が負傷したのは、ぜんぶ君のせいだと吹聴していた』

「……あながち、それは間違いではないです」


 サーベル・ファングさんが僕をどう報告したかは……それは聞きたくもなかった。

 実際ひどい体たらくであったのは間違いない。

 最優先の対象である怪人も、指名手配されているリヴェンジャーも撃破できず、変身機を一基失ったのだ。


 大失態。

 責任を負い、ヒーローの資格を剥奪されても文句は言えない。


「「リヴェンジャー」があの怪人を庇ったとき、自分が信じられなくなったんです。この歪んだ組織のなかでも正義を貫こうと誓っていたのに……あの場では、自分が悪のように思えて」


 それもこれも、自分がいつまでも迷っていたのが原因だ。


『……』

「その結果が、これです。変身機は壊されてしまって、みすみす彼らを逃すことしか」


 ――なにが、信念の剣フェイスソードだ。


 そう自嘲する声が、脳内にリフレインする。

 こんな情けない姿、ユウさんには見せられない。

 彼のように、勇敢なヒーローであろうと志したのに、こんな有様では。


 肩を落とし、手からも力が抜ける。

 だがそんな僕の肩に……先生はそっと、手を置く。


『話はわかったよ、けどねぇ……怪人が人間性を保持している例なんて、ほとんどない。どころか人間の声色を模写して、相手を騙して襲うような悪辣なやつもいるんだ。君のその判断は、客観的には正しいものとは思えない』


 そう、諭すように語りかける先生。


「……」


 なにも、反論はできなかった。

 もしかしたらあの油断のせいで、サーベル・ファングさんが命を落としていたかもしれない。

 怪人の策略だったら。もっと言えば、あの怪人騒ぎ自体がリヴェンジャーを含めた反英雄組織アンチテーゼの謀略だったとしたら。


 僕の感覚と勝手な判断で、「英雄達ブレイバーズ」のメンバーを危険に晒したのは純然たる事実だった。

 そう思うと、改めてどん底まで落ち込む。


 ……だが。


『けど』

「え……?」


 続いた思わぬ接続詞に、顔をあげる。

 するとそこには穏やかに僕へと微笑みかける、先生の顔があった。


『君は、感じたんだろう?自身の能力で。君の「直感」が、その怪人には危険性がないかもしれないと』

「……はい」


 その目は、まっすぐに僕を見ていて。


『なら、確かめるべきだ。まだ遠くには逃げていないだろうし、捜索して捕まえよう。抵抗するようならば撃破も視野にいれなければならないが、まぁ……可能なら、無傷でね』


 心の底から僕を信頼し、協力してくれる。

 そんな思いがこめられた暖かな瞳に……僕は思わず、感極まりその手を固く握った。


「先生……!」


『ほら、予備のエヴォ・トランサーだ。初めは拒絶反応があるだろうが』

「ありがとう、ございます!」


 グレイト・ティーチャー先生から差し出された変身機を腕に取り付け、深呼吸する。

 ……いつまでも塞いでいたって、仕方がない。

 失態の挽回も、事の真相も。

 自分から行動しなければ、手に入れられるはずがない。


 そのためには、もはや。


「……今回はあれも、持っておくべきかもしれない」

『あれって、まさか?いくらリヴェンジャーとの交戦も視野に入るとはいえ、君の負担を思うと……』

「構いません」



 力を、温存している余裕はない。



「一時でも迷い、剣が鈍ったばかりに遅れをとった。なればこそ……今度こそ、本気の自分で相手をしなければ」


 己が宿敵、復讐者。

 あの怪人を追う以上交戦は避けられない、奴に見せつけなければ。


「――待っていろ、リヴェンジャー。お前の挑発に乗るようで癪だけど……僕は、今度こそなってみせる」


 挑発に乗るようで癪だが……四の五の言ってる場合じゃない。

 本当の力、本当の正義。


 本当の自分で――リヴェンジャーを打ち倒す。

 それこそ、きっと。



「――ユウさんに約束した通り、正義のヒーローに!」


 自分が憧れの人に近づき、そして超える為の最善策。


 そう信じて。

 ――僕は変身し、怪人たちの捜索へと加わったのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る