chapter4.5:始まりとこれからと

chapter4.5-1:復讐の後先


 ◇◇◇





 ―――あいつは、俺の親友だった。


 理不尽に苦しみ、自ら黒い仮面を被った不幸な戦士。

 もう会えないのかもしれないけれど……いつか、また話せる日がくるといい。


 そう、強く信じている。





 ◇◇◇




「今日の記事更新、終わりっと……」




 俺……国見ケ丘 ダイキは、そうして端末の電源を落とす。


 運営しているまとめサイト「クニミニュース」の人気は上々だ。こんなご時世、人々は皆貪欲に情報を求めている。

 自分達を守る、「ヒーロー」という存在。そして……自分達を害する、「怪人」という存在も。


「……ん」


 ふと、自身のアカウントへ、不審なIPアドレスからの不正アクセスの履歴を確認する。

 それも、数百通りのパスワードを試してのものだ。

 アドレスの末尾は「brvr.jp」……それが何を意味するか、すぐに気付かないほど俺は愚かではない。


 俺はログイン時に経由するサーバーを切り替え、追跡を回避するようにして接続をし直す。

 それに伴って、サイトのドメインも切り替え。この程度のことで閲覧数が減ることはないから、思いきってやる。


 うちのサイトは掲載している内容の都合上、「英雄達ブレイバーズ」によって監視されているらしい。

 おそらく不正ログインも、俺の個人情報を抜き出してリアルに突撃しようという魂胆のものなのだろうが……生憎、そう易々とやらせはしない。


「さて……」


 俺は改めて、その不正ログイン者の閲覧履歴を確認する。

 すると……彼等がみた記事のなかで、飛び抜けた閲覧数を誇るものがあった。


 ―――「ヒーローを狩る、黒いヒーロー」のまとめ記事だ。


 この記事は、一般層からはあまり興味を持たれてはいない。

 俺が個人的に載せたかっただけの記事なのだから、別にそれでもいいのだが……存外、コテハンからの根強い支持がある。


 ……「グラサンヤクザ」さんに、「うさぎ」さん。それに「超絶クール美少女」とかいう荒らしが滅茶苦茶ログ流ししたりしてる。

 他にも、たくさん……黒いヒーローを、「リヴェンジャー」を様々な形で知った人々が、ここには集まっている。


 俺はそんな彼等の個人情報が、ヒーロー連中に抜かれないように様々な対策を重ねる。

 ……このサイトは、謂わば井戸端会議のようなものだ。

 誰もが気兼ねなく、ヒーローを褒め称え、そしてヒーローをこき下ろす。

 個人の感想を、誰に遠慮するでもなく言い合える聖域でなければならないのだ。


 お陰さまで広告等の収益自体はだいぶ入っているし、俺はどんどんとその設備を拡充させていく。多少生活にも充てさせても貰ってはいるが……まぁ、それは手間賃ということでご容赦戴きたい。


 ―――誰もが、自分の正義を信じている。


 そのなかで、誰かの正義を信じる人間だって居たってよくて……それを封殺しようとするような存在を、絶対に許容することはできない。


 だから俺は、命ある限りこの「クニミニュース」を運営し続けるのだ。

 それが……俺なりの復讐なのだと、自分自身に規定して。






「……でも」




 でも、もし。




 もしもひとつだけ、叶うのならば。




「いっしょに、登校してぇなぁ」




 自分の親友と笑顔で話せる日が来るといい。


 そんな叶わないかもしれない願いを天に投げて……俺は今日も。

 退屈で、窮屈な学校へと、向かっていくのであった。

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