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chapter4-2-15:制・御・不・能
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―――全身を、自分のものでない因子が包む。
それは仄かな嫌悪感と、圧倒的な力を手にしたという実感を俺に与えつつも、その形を鎧と為していく。
……和の意匠を強く残した、紫色の戦闘衣。腰には幾つかの小刀が並び、その上に羽織めいた意匠の増加装甲が纏われる。
―――ヒーロー、「ヴァイオレッド・シーフ」。
その、自身がこの手で殺した怪人の姿を……今、俺は取っていた。
『「ヴァイオレッド・シーフ」……?なんで、せんせいが、ヒーローの姿を……』
それをみたカナコは、今までとは毛色の違う衝撃に目を剥く。確かに、彼女が幹部級であるのなら、所属するヒーローであった「ヴァイオレッド・シーフ」との交流もあっただろう。
その姿を、相対する敵がとったのだから驚くのも当然だ。……事実、俺とて変身後の姿が、彼のそれと細部以外一致しているとは思いもしなかったのだから。
『……でも!そんな他人の猿真似で、わたしを倒せるなんて!』
だが彼女は抱いた衝撃にも構わず、直ぐ様その最大火力を俺にぶつけてくる。
拡散する、広範囲攻撃だ。杖から放たれたそれは、無数に枝分かれして―――俺を目掛けて一直線に直進してくる。
その攻撃を前にして……、縫うようにして潜り抜け、回避しようとする。
『―――!』
―――瞬間。
放たれた光線が、途端にスローモーションのように見える。
それは周りが遅くなったからというわけでもなく……単純に、自分が早くなったからと気付いたのは直ぐだった。
俺自身の「身体強化」と、「盗賊」の記憶触媒の相乗効果。
それは加速性能でいえば、「リヴェンジャー」以上のものだ。元々の変身者が持っていた能力は使えない為、本来劣化にも等しい形態ではあるが……ただ、こと身体性能に関しては完全に上位互換といっても差し支えない。
俺はそんな全能感を全身に感じながら、「ANTI KKURI」を構える。
刃には、「盗賊」の因子。これ程の力だ、何をも両断できるに違いない。
例え―――、
『―――はぁッ!』
『なっ―――』
例え、「プリンセス☆マナカ」の放った光線であっても。
両断して、それを避けつつ進める。奴の目前まで迫って、その高慢な面に一撃を見舞える。
―――命を、奪え(待て)る、
(―――待て!)
なんだ、なんなんだ。
今楽しいところなんだ、この調子でいけば、自由を手にして……そして、命を(違う)
―――違う!
俺のものでない、僕の意識が近付いてくる。
これが、変身したせい……
いや違う、変身したお陰だ。
怪人、新人類として成立することには失敗したが、そこで記憶触媒に封じられたのはかえって成功だった。
だからこそこの男、鳴瀬ユウの身体を奪うことが、可能かもしれないのだから―――!
『きゃあっ!?』
因子を載せた斬撃を、元上司に見舞う。
そもそも気に入らなかったのだ、年下の癖に「四天」なんて立場に就いて、好き放題やりたい放題な彼女が。
奪いたい、その全てを奪いたい。
ずっと不自由な身にあった僕としては、好き勝手に振る舞う奴等は誰もが敵だったのだ。
それは「
『早、い!?うそ、わたしがこんな!』
空中に因子による力場を生成し、空中で連続斬りを披露する。これはこの戦闘衣の元の持ち主、その因子である僕にしか自在に使えない芸当。
間違っても「鳴瀬 ユウ」には絶対に不可能な戦い方だ。
そうして結界を張る彼女の全身を満遍なく斬りつけ―――その注意を反らす。
『―――そんな、ものぉ!』
万事窮した彼女は、全方位へと光線を照射する。
……これでは、確かに逃げ場はない。僕の、逃げ場は。
『爆発!調子に乗るからだよ、せーんせ☆』
ピンクの爆風と共に、「プリンセス☆マナカ」の勝ち誇った声が響く。
そして煙が、ゆっくりと晴れていく。
―――そこにあるのは、確かに僕の遺体だった。
紫の流麗なデザインの装衣に、イカしたデザインの頭部。まさしく和風ヒーローといった様相のヒーローの姿。
それが為す術もなく、地面に倒れている。
『アッハハ!調子にのってるからそうなるんだよ!バーカ☆』
お姫様のようなデザインの戦闘衣を損傷しながらも、カナコ……「プリンセス☆マナカ」はそういい放つ。
その表情は優越そのものだ。
まさしく勝ちを確信した顔、今がこの世の絶頂であると言わんばかりの恍惚。
そうだ。
―――それを、待っていた。
<盗賊:最大解放>
『―――え』
瞬間。
彼女の背を、強力な一閃が見舞う。
戦闘衣は光と消え……彼女の身体は地に堕ちる。
他ならぬ、僕の手によって。
『なん、で……!』
何も分からない、と混乱した眼で、彼女は確かに目の当たりにした、「ヴァイオレッド・シーフ」の死体を見る。
それは変わらずそこにある。かっこいい和風ヒーローの姿だ。
変身解除もされずに、変わらずそこに。
―――そして次の瞬間に、それは煙となって消えていったのだ。
『な―――!!?』
彼女の顔が、一転する。
勝ち誇った、全てを見下した愉悦の表情は途端に苦悶に歪む。
劣等感と、羞恥心。それに支配された表情を、彼女が。
『―――そう、それだ、僕が見たかったのは!』
思わず、鳴瀬 ユウの口の制御権を無理やり奪って叫んでしまう。
―――そう、そうなのだ!
僕はずっと奪いたかったんだ。
こういう、自由に胡座をかいて慢心しきった奴の優越感を!自由を!
それはあの、こそ泥の中にいても、一切満たされることのなかった感情。ヒーローを狩る、鳴瀬 ユウの肉体だからこそ得られるもの。
『……!』
だがそこで、雑音が響く。
同時に身体の自由が一瞬効かなくなり……僕は、
いや、俺は―――!?
『―――アハ☆なんて、ね!』
―――瞬間。
全身を、光線が貫く。
手を、足を。ワイヤーのように展開された光が、僕の……俺の身体を縫い止めていた。
『く、ぅ……』
『なんかに乗っ取られてたみたいだったけど、せんせぇ大丈夫?今―――』
『変身、解除させてあげるね?』
マナカの言葉と共に。
視界が―――光に包まれる。
手足は動かず、油断をすれば意識すら喪いかねないその状況で、俺に取れる対策は……ひとつもなかった。
やがて。
『―――ぐうああああァッ!?』
―――全身が、焼ける。
その閃光の終端に、俺がみたものは……ただひとつ。
四天、「プリンセス☆マナカ」。その心底人を玩具としか思っていないような、邪悪な嘲笑のみだった。
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