私は神様らしい
北森アヤ
第1話
気が付いたら辺りは光が一切入らない暗闇だった。
『暗い……』
そう思えた。
自分がどのような存在で、意識が戻る前まで何をしていたか、男なのか女なのかすらも思い出せないが、今ここが暗闇であるという事が分かるほどには知識がある存在だという事が分かる。
記憶がない事実に対する焦りや不安はなぜかそれほど無い。
自分は冷静に現在の状況を把握しようとしている。
その事に少し驚くが。
その様な事を考えながら徐々に覚醒する意識の中で自分が体を動かしていないことに気付く。
つまり目を開けていないから暗いのだと。
ということは私は眠っているのだろうと推測する。
久しく目を開けていない気がしたが、目を開けたいとも思わなかった。
理由は分からない。
漠然とそう思ったのだ。
『私の意識は私の身体に二度寝する事を提案する 』
そう自分に言い聞かせてみたが、意識ははっきりとしており、寝てはくれない。
意識があるのにこの暗闇に居続けるのは、夜になかなか寝付けない様な辛さがある。
『仕方ないな、目を開けてあげる 』
そう自分の体に宣言するとゆっくり目を開ける。
光が目に差し込み痛い。
ぼやける目の視点をやっと合わせ、辺りの状況を伺えば、自分は一目で豪華だと分かるベッドに横たわり、その他ベッドと同じ様なデザインで統一された豪華な家具が並ぶ広い部屋にいる事が分かる。
『うわぁ……』
引いた。
ゴッテゴテのキッラキラだ。
記憶にない頃の私の趣味がこれを良しとしたのか?今の私は良しとしていないぞ?即刻模様替えを希望するレベルだ。
別にコレを趣味とする人を否定するつもりは毛頭ない。
個人の趣味は犯罪にならない範囲で自由であるべきだと考えるからだ。
この家具たちも買い手がいるから作られ、この世に生まれる事ができたのだ。
大変喜ばしい事である。
しかし、どうにも私の趣味とは合わないため、然るべき持ち主の所に行くべきではないのか?是非そうするべきである。
そう思うのである。
内装に反射的に眉をひそめてしまった。
否定するつもりは無いと言っておきながこのざまである。
どうやら寝ている間にポーカーフェイスを私の表情筋は忘れてしまったらしい。
『申し訳ないです。表情筋の試運転に協力感謝します 』
自分とは違う趣味を持っている人々への謝罪と、意味の分からない感謝を述べながら両手両足が動く事を確認する。
どうやら全て存在し、問題なく動くらしいので、ベッドを降りてみる。
長い間寝ていた気がするが、立ち歩くのに支障はない。
部屋を歩き回り身体の具合と自分以外の人間がいない事を確認すると、あえず自分の容姿くらい確認しておこうと、近くの壁に大きな全面鏡があったので鏡の前に立つ。
鏡を覗き込むとそこには自分で言うのもなんだが綺麗な女性が写っている。
整った顔に白い肌、腰まで届く艶やかなストレートの長い髪。
年齢は10台後半から20台前半というところで身長はだいたい165センチほど。
足首までの丈があるネグリジェで体型はハッキリしないが細い様に思われる。
ただ問題があるとすれば、長い髪は白銀に輝き、大きな目は赤く、長い睫毛と整った眉毛は髪と同じ色だったのだ……
記憶はないけどコレは常識とは違う。
断じて違う。
「違う 」
あ、声が出た。
どうやら声の試運転もできたらしい。
長く眠っていたのなら声がかすれてもいいと思うが、そんなことはなかった。
澄んだ声が自分の耳に届く。
ただ声を出してまで否定した容姿は、常識とは異なっているが、不思議と違和感はない。
それが不思議ではあるのだけれど。
そんなふうに考えていると、部屋のドアがコンコンと叩かれ1人の美しい女性が入ってくる。
女性はベッドの上に私の姿が無いのを見ると、顔を青ざめさせた。
急いで部屋を見渡し、鏡の前に私の姿を確認すると目を見開きその場に泣き崩れる。
美人は泣き崩れる様子も美しい。
思わず感心してしまった。
しかし、そのふわふわとウェーブのかかった髪は自分と同じ白銀色に輝き、涙が溢れる目は赤い色をしていることは見過ごせない。
「常…識……?」
震えた。
私の持っていた常識はどうやら更新する必要があるらしい。
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