第24話 ミッターマイヤーの手帳
貴史はレイナ姫たちがつながれている枷に剣を振るって破壊ししようとしたが、貴史の剣は木材を束ねる鋼鉄製のたがに弾かれてしまった。
「おかしいな。ヤースミーンの攻撃支援魔法の効力が残っているはずなのに」
貴史がつぶやくと、ミッターマイヤーは冷たい視線を投げる。
「おぬし、わしの話を聞いておらんかったな。この建物の中では魔封じの術が使われておるから魔法は使えぬと言ったであろう」
「でも、さっきはドアのカギだけでなくてドアの板材までぶち抜いていたのに」
貴史は不思議そうに自分の剣を見るが、クリストは穏やかな笑顔を浮かべて言った。
「それはシマダタカシ殿の腕力が強くなったからでしょう。日ごろから暇な時に剣を振り回して鍛錬した結果ですね」
貴史はクリストに褒められた気がしてなんだかうれしくなったが、ヤースミーンは話が遮られたので不機嫌にミッターマイヤーに問いかけた。
「私は何をすればいいのですか?」
「おお、そうじゃった。わしの服のポケットに手帳が入っておるから取り出してくれ」
ヤースミーンは言われるままにミッターマイヤーのポケットを探る。
「むひょひょひょ。どこを触っておるのじゃくすぐったいぞ」
「うるさいですね。ミッターマイヤーさんポケットにガラクタを入れすぎですよ」
ヤースミーンは白けた雰囲気でポケットの中身を見分し、最後に羊皮紙でできた分厚い手帳を取り出した。
「これですか」
「それじゃ、その手帳の128ページに魔封じの術を解除するための呪文が記してある。そなたの魔力をもってすればその呪文を唱えて念じれば必ずやここにかけられたの魔封じの術を解除できるはずじゃ」
「わかりました」
ヤースミーンは羊皮紙の手帳のページをめくり始めたが、すぐに顔を上げた。
「ミッターマイヤーさんこれ、ページ番号が振られてませんよ。最初のページから数えろってことですか。それに呪文を覚えているミッターマイヤーさんが唱えたら早いでしょ」
「魔封じの呪文を解除するには多大な魔力を消費するから、その直後は瞬間移動の術は使えぬ。それゆえそなたに頼むのじゃ。ページは最初から数えてもらうほかないのお」
ヤースミーンは仕方ないといった風情でぺージをめくって数え始めた。
皆が息を詰めるようにヤースミーンの手元を見つめている。外からは時折爆音が響き、ララアの攻撃が続いていることがわかる。
その時階段を駆け下りてくる足音が響き、入り口のドアが乱暴に開けられた。
貴史は剣を構えて入り口に詰め寄り、入って来たガイア・レギオンの兵士も貴史に気付いてあわてて剣の柄に手をかける。
しかし、兵士が剣を抜くことはなかった。入り口の壁に寄りかかっていたクリストが壁際に置いてあった棍棒で兵士の後頭部をしたたかに殴りつけたからだ。
「こういう時は出入り口の見張りが必要だ」
クリストは兵士を壁際まで引きずっていき、ドアを元通りに閉めると再びドアの脇の壁に寄りかかった。
「ありがとうクリストさん」
貴史はクリストに礼を言ってからヤースミーンを振り返ったが。ヤースミーンは泣きそうな表情で開いた手帳を見つめていた。
「どうしたんだヤースミーン」
「今のでびっくりして、何ページまで数えたか忘れちゃいました」
貴史は絶句したが、ミッターマイヤーは笑いをこらえきれない表情で言った。
「落ち着いて最初から数えなおすのじゃ。周囲のことはシマダタカシたちが何とかするから、そなたはページを数えて呪文を唱えることだけに集中するのじゃ」
ヤースミーンは気を取り直して再びページを数え始めた。そして128ページ目まで数えたところで、ミスリルの神に祈りをささげてから呪文の斉唱を始める。
しかし、呪文を聞いていたミッターマイヤーは慌てて口を開いた。
「ちょっと待った!それは魔法でカエルにされた者を元に戻す呪文じゃ。ヤースミーン殿はページを数え間違えたのではないかの」
「そんな、ちゃんと数えましたよ」
虜囚を閉じ込めた地下室に気まずい空気が流れたが、ミッターマイヤーは何かを思い出して表情を明るくした。
「そおじゃ、レイナ姫を慕って住み着いた兵士がトリプルベリーの街に出かける時に、買い物を頼もうと思ってメモ用に1枚破ったことがある。わしのせいじゃった、すまんのヤースミーン殿」
「それではひとつ前のページが正解なのですね」
ヤースミーンはむすっとした顔で手帳に目を落とすと、ページを一枚手前に戻して再び呪文の詠唱にもどった。
しかし、呪文の斉唱があまり進まないうちにミッターマイヤーが再び彼女の斉唱をさえぎった。
「違う!ヤースミーン殿は呪文のうちで「シャ」と読むべきところを「シュ」と読んでおる。それでは呪文の効果は出ませんぞ」
ヤースミーンは呪文を読むのをやめると、手帳の文字をじっと見つめてからミッターマイヤーの方に顔を上げた。
「ミッターマイヤーさんの字が汚すぎるんですよ。「シュ」みたいに見えるところは「シャ」に読み替えたらいいんですね。それに数字の4と9が同じに見えるのも信じられない」
「わるかったの、わしはそれで充分用は足りておる」
ミッターマイヤー拗ねたように呟き、ヤースミーンはため息をついた。
ヤースミーンがもう一度、呪文の斉唱に取り掛かった時、貴史はブンといううなりと共に強い圧迫感を感じた。
そして、自分たちの目の前の床に先ほどまではいなかったはずの人影を認めて凍り付いた。
そこには金色の仮面をつけた戦士が立っていた。
戦士は片手に剣を持ち、もう片方の小脇に見まごうこともないララアを抱えていた。
ララアは気を失っているのかぐったりとし身動きもしない。
「ララア!」
貴史は叫びながら剣を抜いた。
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