異世界酒場ギルガメッシュの物語2

楠木 斉雄

第1話 ギルガメッシュ繁盛記

ギルガメッシュの酒場は大勢の商人で賑わっていた。



商人たちはドラゴンの鱗や皮、そして腱や骨に至るまでを工芸品の材料として買い付けに来たのだ。



貴史たちはヒマリア国の王都イアトぺスまでハインリッヒ王に招かれたが、帰りの道中で貴史たちは村を襲っていたグリーンドラゴンに遭遇した。



そのドラゴンは森の奥で近隣のドラゴンハンターチームが手傷を追わして取り逃がし、逆襲して村に襲い掛かっていた。



貴史たちは鮮やかにドラゴンを倒し、それを見たドラゴンハンターのチームから移籍を申し出る人々が詰めかけた。貴史を刃刺しとして崇拝する新チームが出来上がったのだ。



そして、チーム「シマダタカシ」はつい最近も南の森まで遠征してレッドドラゴンを倒したばかりだ。



ギルガメッシュはチーム「シマダタカシ」が倒したドラゴンの交易拠点として賑わう場となっていた。




「何も旦那が酒場で働かなくてもいいじゃないですか。ドラゴンハンターの刃刺しといえばちょっとした貴族くらいの暮らしができるんですぜ。」



チームのまとめ役のリヒターが貴史を追いかけながら話しかけてきた。



貴史はタリーに頼まれてドラゴンの背肉の塊を地下倉庫に取りに行くところだ。



貴史はため息をつく。



貴史にしてもドラゴンを倒して蓄えがある間はのらくら暮らしたいのはやまやまだが、ヤースミーンがそれを良しとしないのだ。



刃刺しとしての貴史の能力は、ヤースミーンの支援魔法に頼る部分が大きいので、彼女の意向は無下にできない。



「無駄使いしないで蓄えを作っておくのも大事だよ。ドラゴン肉を売りさばけるからこのギルガメッシュの酒場を手伝うのはいいことなんだ。」



ヤースミーンのセリフの受け売りでリヒターに言い聞かせると、彼は感心した表情を浮かべる。



「やはり旦那の考えることは違いますな。わっちらを養うための蓄えまで気にしていただけるとは。リヒターは感心しやした。これからも旦那についていきやすぜ。」



そこまで感心されると何だかくすぐったい感じだが、貴史はもっともらしい顔をしてリヒターにうなずいて見せる。



地下一階の通路に降りて、肉の貯蔵庫を目指して歩いていて、貴史は通路の壁に描いている落書きが目に留まった。



貴史はこの世界に転移した時に言葉や文字は理解できるようになっていた。それなのに地下通路の落書きは一文字も読むことができない。




「リヒターさんこの壁の文字はなんて書いてあるんだろう?。」




リヒターは落書きの文字に目を凝らしたが、眉をひそめて言う。




「旦那あっしだって文字くらい読めるけどこいつはいけねえよ。あっしらの文字ではなくて、古代ヒマリア文字で書いてある。こいつを読もうと思ったら絶滅した古代ヒマリア王国の民を呼んでくるしかありませんや。」




「古代ヒマリア人?何故そんな時代の落書きがあるんだ。」




貴史が怪訝な顔で落書きを見ていると。一回から降りてくる階段からヤースミーンの声が響いてきた。




「シマダタカシ、冷蔵室からお肉を取ってくるのにいつまでかかっているんですか。」



ヤースミーンは様子を見にきたらしく、階段を駆け下りてくる。



ギルガメッシュの酒場のウエイトレスの昼間の制服となっているメイド服姿だ。



「ごめん。この落書きが目についてリヒターさんと一緒に見ていたんだ。」




ヤースミーンはやれやれと首を振りながら肩をすくめるが、壁の落書きを見て息をのんだ。




「これは、古代ヒマリア文字じゃないですか。今まで何回も通っているのに全然気が付かなかった。」




「やっぱりシマダタカシの旦那は目の付け所が違うんでやすね。」




リヒターはむやみに貴史を持ち上げるが、貴史はかまわずにヤースミーンに聞く。



「この文字を読めるのか?。」



「うん。魔法学校の暗号解読の実習でこの文字を読まされるの。でも大したことは書いてないわね。酔っぱらいの落書きみたい。」




ヤースミーンは壁の文字を目をすがめて読み始める。




「なんて書いてあるんだ?。」



「うーん。ドセの明けには火酒が一番とか、俺様はFTLより速いとか訳わからないことが書いてあるけど、共通する結びの言葉で終わっているわね。」


「共通する結びの言葉って?。」



「ララアに栄光あれ。」




貴史はそれぞれの落書きの末尾の辺りを眺めた。そう言われてみれば同じ文字の並びがあるようだ。




「ララアって何者なのかな?。」



貴史がなおも壁の文字を見ていると、ヤースミーンはパンパンと両手をたたいた。




「はい、古代史の時間はもうおしまい。早くお肉を取ってきてください。」



やばい、これ以上もたついていたら怒られる。



貴史はリヒターを促して冷蔵室をめがけて駆け出した。



「時間がある時にまた教えてくれよ。」



貴史は振り返って叫ぶ。



「はいはい。」



両手を腰に当てて貴史たちを見送りながら、ヤースミーンは鼻から息を吐きだした。





貴史は夜も更けて酒場の営業が終わり、従業員の食事の時間になった時タリーに尋ねてみた。



「タリーさん、この建物って古代ヒマリア人が作ったものなんですか?。地下の通路に古代ヒマリア語の落書きを見つけたんです。」




「え、そうなの。」




タリーはきょとんとした顔で答える。




「この建物の前の持ち主ってもしかしたら古代ヒマリア人の末裔だったとか聞いたことありませんか。」




貴史の言葉にマルグリットとノラは驚いた顔をする。



二人ともトリプルベリーの街から来て、住み込みのウエイトレスとして働いている。



ヤースミーンを含めた女性3人はバニーガールのコスチュームを着ている。タリーの趣味でディナータイムの制服として街の仕立て屋にオーダーしたものだ。



「うそお。伝説の古代ヒマリア人がこんな町の近くに住んでいたって言うの?。」



「でもあれでしょ。都市伝説とか言うやつで、本当は絶滅してるのよね。」




二人が口々に言う間、タリーは考え込んでいた。



「そういえば、俺にこの酒場の建物を打ってくれたやつの話し方には妙な訛りがあった。国が滅びた後もここに代々住み着いて酒場を営んでいたのかな?。」




ノラは指を立てて振って見せた。



「タリーさんは古代ヒマリア人の伝説を知らないんでしょ。生き残りの古代ヒマリア人は滅亡した王の娘が復活した時に正体を現して集結し、王女を先頭に私たちの国を滅ぼしに来るという伝説があるのよ。」




「そんな怖い話なのか。」



タリーの顔がこわ張る。



「あっしたちが子供のころは、悪いことをしたら『古代ヒマリア人が来るよ』でおどかされて、シュンとなったもんですよ。」




リヒターが頬杖をついて感慨深そうに言うと、彼の手下のホルストとイザークは神妙な顔でうなずいた。

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