第24話「【最終列車】」
死神の従業員に案内され、しばらく歩いてたどり着いたのは、遊園地の敷地内にある小高い丘の上だった。
そこには小ぢんまりとした駅舎を模したレトロな建物があり、建物の前には線路が敷かれていた。
死神に付いて〈駅舎〉に入ると、そこには十人ほどの人々がいた。
〈改札〉の外のホームには、さらに多くの人々の姿がある。
合わせて何十人くらいいるのだろう。
彼らもまた皆、この時間までアトラクションを決められずにいた客のようだった。
『間もなく、列車が参ります……間もなく、列車が参ります……。お乗りの方は、ホームに出てお待ちください……』
駅舎の雰囲気に合わせたような、やけに音質の悪いアナウンスに促され、まだ改札のこちら側にいた人々が一人、また一人とホームに向かう。
シュウと島雨も、彼らに続いた。
改札をくぐるとき、係員にアトラクションチケットを渡すよう言われた。
シュウの手持ちのチケット六枚は、そこですべて残らず回収された。
それによって、シュウはなんとなく察した。
このアトラクションには、おそらく〈ハズレ〉は存在しないのだ、と。
ホームに出て待っていると、アナウンスどおり、すぐに列車がやってきた。
駅舎によく似合う、レトロなデザインのトロッコ列車。
その窓にガラスは嵌っていなかったが、ただ、客車のすべての窓は鉄格子で塞がれていた。
列車がホームに停まり、客たちはぞろぞろとそれに乗り込む。
すぐそばで、従業員の持つ鎌が電灯の光を反射していた。
シュウも列車に乗り、特に申し合わせたわけではなかったが、二人掛けの座席に島雨と並んで腰を下ろした。
窓側にはシュウが座った。
車内の天井から、例によって、何台もの監視カメラが乗客たちを見つめていた。
「……ちょっと、落ち着かないですね。……カメラ」
シュウは、島雨に話しかけたつもりだった。
けれど島雨は、聞こえていないのか、それともわざと無視しているのか、何も反応を示さない。
「……この遊園地、監視カメラ、多すぎですよね」
少し気まずさを覚えながら、それでもシュウは、隣の席に話しかける。
「まあ、こんな場所だから、カメラも必要なんでしょうけど。でも、それならそれで、せめてもっと隠しカメラみたいにしてくれてればいいのに……。性能のいい小型カメラなんて、今時いくらでもありますよね。なのに、こんな、これみよがしな――」
「――これみよがしに目立つカメラを置いとけば、客の意識はそっちに向くだろう?」
島雨が言葉を返したので、シュウは口をつぐみ、隣を向いた。
「ああいった、いかにもな監視カメラとは別に、盗撮用の隠しカメラも、この園内には大量に設置されてると思うよ。俺はいくつか見つけた。……ここにもね」
と、島雨は、前の座席を指差すように手を伸ばし、いくつかあるネジのうちの一つに人差し指を押しつけた。
島雨が指を離すと、確かにそれはネジではなく、ネジの中に紛れ込ませた小さなレンズらしきものだった。
スピーカーが、短いノイズを鳴らした。
音質の悪いチャイムが響き、それに続いて、やはり雑音混じりのアナウンスが流れる。
『本日は、23時55分発の【最終列車】にご乗車いただき、まことにありがとうございます。……この列車は、午前0時ちょうどに、崖下へと転落いたします。……なお、この列車は、〈幻想度〉50%、致死時間約5秒のアトラクションとなっております……』
シュウは、思わず時計を確認した。
列車の中には、ちゃんと大きな目立つ壁掛け時計があった。
きっと、間違いのない正確な時計なのだろう。
そのあとも、五分ごとに同じアナウンスが繰り返された。
そして、何度目かのアナウンスが流れたあと、いよいよ列車の出発時刻となった。
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