第2話 金太郎と泉の女神🪓
赤ずきんたちはこの森で一番大きな泉の前にいた。
「こんなところで何してるんだ?」
声をかけてきたのは赤い腹巻きにマサカリを担いだおかっぱ頭の体格の良い少年。
「金太郎!」
木こりも思わず声を上げる。
彼のすぐ後ろには成獣と思しき熊もいる。大人しくこちらを見つめている。
「これからカグヤを倒しに行くところだ」
「カグヤを?」
赤ずきんの返答に金太郎が驚いて目を丸くした。
今度は木こりが説明する。
「ああ。カグヤのせいで俺の父さんが倒れたんだ。このまま何もしないわけにはいかないよ」
「ところで金太郎、ちょっとマサカリ貸してくれないか?」
「いいけど、何に使うんだ?」
マサカリを赤ずきんに渡して、不思議そうに尋ねる。
彼女はニヤリと笑みを浮かべると、手に持ったマサカリを目の前の泉へと放り込んでしまった。
「あーっ! 何すんだ、お前!」
「今に分かるさ」
「ふざけるな、俺のマサカリ返せ!」
怒りを露わにする金太郎とは対照的に涼しい顔の赤ずきん。
やがて、泉の中から一人の女性が現れた。
手には色の違うマサカリが三本握られている。右手には金と銀のマサカリ、左手には今しがた赤ずきんが放り込んだ金太郎のマサカリ。
「泉の女神!」
木こりと金太郎が同時にそう言うと女神は微笑んで、
「皆さん、久しいですね。マサカリが投げ入れられたからびっくりしましたよ」
「久しぶりだな。女神に聞きたいことがあって呼び出した」
「まあ、どんなことかしら?」
「最近カグヤを見なかったか?」
「カグヤ自身を見たわけではないけれど、屋形舟らしき物体が飛んで行くのを見たわ。西の方に向かって飛んで行ったけれど」
「この空を西側に?」
金太郎が呟いてそちらに顔を向ける。
木こりたちも同じように顔を向けた。
「西側って確か鬼ヶ島がある方向じゃないか」
木こりが呟くと、赤ずきんが顔を女神の方に戻して、
「分かった。情報をありがとう」
そう口にすると、女神は微笑んで言った。
「ところで赤ずきん、あなたが泉に投げ入れたのはどのマサカリかしら?」
女神は手にした三本のマサカリを軽く持ち上げて彼女に尋ねる。
「左手に持ってる方」
「あなたは正直者ですね。こちらの金と銀のマサカリも受け取ってください」
彼女は黙って頷くと、三本のマサカリを受け取った。
後ろにいる金太郎を振り返ると、彼にそのままマサカリを返す。
「さっきは悪かったな」
「ああ。まあ、ちゃんと返ってきたから今回は許してやる」
「金と銀のマサカリもいるか?」
「いや、そっちは必要ない。赤ずきんが持っていろ」
「分かった」
返事をしてから、隣にいた木こりに銀のマサカリを渡す。
「持ってろ。木こりの武器だ」
「武器って……」
手にした銀色のマサカリを見下ろした。
ずしりと重たいそれは陽の光を浴びて白っぽく輝いている。
「なあ、これでカグヤを倒せると思うか?」
木こりはオオカミに尋ねる。
彼は少し困った顔をしてから、
「そうですねぇ。ですが、丸腰で戦うよりもいいんじゃないですか?」
木こりは再び銀色のマサカリに視線を落とす。
(そりゃそうかもしれないけどさ……)
「よし、俺たちも加勢しよう。最近、身体がなまっていたから、ちょうどいい。
金太郎は背後にいた熊を呼んだ。熊吉と呼ばれた熊はのしのしとこちらに近付いて来る。
「カグヤは鬼ヶ島の方に向かって行ったんだ。それなら鬼たちを仲間に引き入れた方が早いんじゃないか?」
「確かにな。でも、あたしが考えていたのは鬼のことを誰よりもよく知るヤツを引き入れることだ」
それを聞いて木こりが口を開く。
「それってもしかして……」
「あいつか……?」
木こりと金太郎が同時に赤ずきんを見る。
彼女は腕を組んだまま不適な笑みを浮かべて頷いた。
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