懐かし家電の怪死事件

青キング(Aoking)

事件の発端

 山麓から山腹にかけて広がる村落から、最寄りの警察署に通報が入った。山間の建物から人間の死体が発見されたという。

 通報を入れた村落は高齢化の激しい過疎地域で、警察も老人が野垂れ死にしたまま発見されずにいただけだろうと、事態を軽く見ていた。

 一人の巡査が通報のあった建物に着くと、通報者の老人男性が巡査に言った。

「警察さんよ、早くこっちじゃ」

 急ぐ様子もなく巡査は老人の後をついていった。

 老人が指し示す平屋の建物の入り口を開けて、中に入る。入ってすぐ、老人が巡査の前方を指さす。

「これじゃ」

「通報通りですねぇ」

 入り口から数歩離れた位置に、大人の男と思わしき死体が転がっていた。巡査は念のため部屋を見回した。すると今時目にすることのほとんどなくなった機器が、死体の頭部の前に置いてあった。

 黒く厚みのある四角いボックス型の画面が付いた電気機器。

「なんでしたっけ、この型のテレビ」

「なんじゃったかの。わしも覚えとらんわい」

 巡査は老人に訊いたわけではないのだが、老人は合の手を返した。

 古い型のテレビを気に掛けるのやめ、巡査は再度部屋の中を見回す。

 彼の目が部屋の隅の、衣桁に留まる。衣桁には汚れ一つない白衣が引っ掛けられている。

「ここに住んでいた人は誰なんです」

「そうじゃな、河合じゃ。黄河の河に、の合うじゃ」

「下の名前はご存知で」

「庇じゃった気がするの」

 巡査が何やら記憶を思い起こそうと眉を寄せる。

 はっとして巡査は死体を驚愕の目で見遣った。

「河合庇と言えば、数年前突然行方のわからなくなった科学者じゃないですか」

「そうなのかの、知らんかったの」

「これはただ事じゃないですよ」

 

 山間の建物から死体となって見つかった行方不明中の科学者河合庇。一体彼の身に何が起きたのであろうか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る