才能と志望が不一致な小野寺勇吾のしょーもない苦難3 -専業主夫になりたい小野寺勇吾の最初の試練-
赤城 努
第1話 序章
「……つまり、おまいのやったことは、すべて善意でやったことやっちゅうわけか……」
警察署の取調室で、龍堂寺
その表情は苦渋に満ちていた。
頭痛で悩んでいるとも言える。
むろん、原因は精神的なものである。
相手が供述した内容があまりにも理解しがたくて。
その相手――重要参考人の男子は、
「……………………」
迷いもためらいもないその返答に、
「……ぜやけどなァ、善意さえあればなにをやってもええっちゅうわけやないんやで。たとえいくら
「……………………」
重要参考人は口を閉ざしたまま沈黙している。納得や得心からほど遠いふくれっ面である。その重要参考人は、龍堂寺
「……まァ、そのおかげ示談ですんだとも言えるかもしれへんけど、一歩まちがえたら容疑者になってたかもしれへんかったんやで。わかっとるんのか、そのへんのところ」
「……………………」
「しゃーないやろ。おまいには向いておらへんのやから。ギアプを用いても効果があらへん以上、どうしようもないわ。残念やけど」
「……………………」
「……なァ、悪いことは言わへん。専業主夫になるのはあきらめるんや、小野寺」
「イヤだっ! だれがなんて言おうが絶対なってやるっ! 専業主夫にっ!」
そして、激烈な語気でかたくなに誓う。普段は内気で大人しい性格の
「同じ
「……うん、まァ、ある意味バカやろ。こういう事態を想定でけへんあたり……」
「なんだとっ!?」
「――だってせやろ。おまいの家事に対する評価がこのありさまやのに、反省や学習もせェへんまま、頼まれてもおらへん他人の家事を闇雲に手伝いしまくるんやから」
そのためか、
「――なんやったら代表的な
そう言って前置きすると、小野寺
「ギャァーッ! 皿を全部割られたァーッ!」
「あアァーッ! 洗濯物がズタボロにィーッ!」
「うわァーッ! 掃除したはずの部屋がゴミまみれにィーッ!」
「ヒいィーッ! 料理が死ぬほどマズいィーッ!」
……である。
「……
「……なにか言うことあらへんか……」
静かな口調で釈明をうながす。
「……僕は悪くない。悪いのは割れやすい皿と壊れやすい洗濯機や掃除機と劣悪な食材なんだ……」
だが、
「……特に料理には自信があったんだ。なのにだれもほめてくれないなんて、心のせまい連中だよ。最近になってついに完成にまでこぎ着けるようになったっていうのに」
「完成してからが本番やろがっ!」
「……で、おまいの壊滅的な家事
「……………………」
「――ま、おまいから提示された大金に目がくらんで任せた男子寮の連中も連中やけど……そこまでしてなりたいんか。専業主夫に……」
「うん、なりたい。絶対に」
(……観静からは聞いておったけど、まさかここまでやとは……)
その眼差しを直視して、
「……とにかく、おまいのおこないが
「……うう、そんなァ……」
それを聞いて、
「……泣くなや、そないなことくらいで。別にできなくても死なへんさかい……」
「そんなことだとっ?! 龍堂寺さんにとっては別に死ななくても、僕にとっては死ぬよりもつらいことなんだっ! あなたにはわかるのかっ! 好きでやりたいことなのにやらせられなくなるこの気持ちっ! 友達だと思っていたのに、そんなこと言うなんて、もう絶交だっ!」
「――ああっ、待ってェやっ! そないなつもりで言うたんやないからっ!」
「……せ、せや。今度、ワイの部屋の家事を手伝ってくれへんか。今度大掃除するさかい……」
最後の手段というべきそのセリフで、
その際に上がったよろこびの声も。
(……うう、なんでだれ一人幸せにならへん小野寺の志望のために、だれもがつき合わんとアカンのや。幸せにならへんのは小野寺も例外じゃあらへんのに、はよ気づけやァ……)
そのことに気づく様子もない小野寺
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