償いは契約の後で 5/10

 翌朝、目が覚めたと同時に隣から声が聞こえた。


「おはようございます」


 寝起きで状況を把握するのにしばらく時間が掛かった。


「…………ⅩⅡトゥエルヴさん?なんで……」


 彼は部屋にある唯一の椅子に腰掛けてこっちを見ていた、最初に会った時と寸分変わらない笑顔をこちらに向けて。

 何時から居たんだろうか?まさか自分が起きるまでずっと待っていたんだろうか?

 そんな疑問を口から出す前に、彼の方から説明が始まった。


「まあ、アフターサービスと言いますか、ユーザーアンケートと申しましょうか……率直に【契約】されてどうですか?」

「どう、とは?」


 意図が分からない。この上まだ何か【契約】することがあるのだろうか?


「ご満足頂けましたでしょうか?という意味です。何か、心残りや、やり残しなどはございませんでしょうか?」

「ああ……」


 そういう意味かと納得する。馬鹿丁寧な態度といい、今はどの業界も大変だな。


「それなら、大丈夫です。一番気になっていた事も解決しましたし」

「そうですか……」


 頷くⅩⅡだが、何か引っ掛かるものがあるような態度を感じる。それが何か判らず、一先ずベッドから起きて着替えを済ませてから、そこで気づいた。

 これから後何をして過ごすか決めていない。

 さて、どうしたものかと逡巡していると、横から声を掛けられた。


「私、海が好きなんですよ」

「…………」


 黙ってしまったのは、話の内容がどうこうではなく、そこにⅩⅡが居た事を今忘れていたからだ。つい一分前に会話を交わしたというのに……。


「ご予定が無ければ海を見に行かれてはどうですか?何か新たな発見があるかも知れませんよ」


 こちらの反応を見もせず、ⅩⅡは椅子から立ち上がり、ドアを開けて出ていった。


(そこは普通に出ていくんだ……)


 駅で見た地図を思い出してみる。一番近い海岸は此処から歩いて十分程度だろうか?

 何かを期待などしていなかったが、とりあえず行ってみることにした。

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