1.1.9 拡散
一匹の猿と、エミは一対一で対峙する
エミは跳びかかってきた猿の胸に、タケルが折った一匹目の猿の前歯を突きつけ、心臓を止める。
その猿の長い爪が顔に触れ、彼女の右目から左頬にかけて裂けてしまう。
痛みによってエミは倒れ、意識を失う。
エミやタケル、その他の被害者は全員首都東京国際総合病院へ搬送される
医学部、農学部の新入生の保護者に聖堂シンから直接謝罪の電話をかける
聖堂シンは、エミの苗字と彼女の両親の名前を見た時、エミは嘗てのライバルであり、聖堂の妻であった聖堂ミズカを殺した、隅田セイジロウの娘だということを知る。
父の安否を確かめに病院へ駆けつけたショウタは、シンがある病室へ入っていくのを目撃する
その病室にいそいで入り、緊急治療によって顔の傷を一時的に塞いであるエミをショウタは見る。
「この人は昨日会った冷酷美少女じゃないか^^!」
シンはショウタにエミの正体を教えた後、診療記録を見せた
エミはTK大学農学部本試験後に、この病院で整形し、2ヶ月にわたり、入院していた。
主治医はシンの涯臓研究チームの一員である、御影アユムが担当
シンはショウタに整形したことを学校に言いふらせと命じる
ショウタは、小さい頃自分を愛してくれた母を奪ったのが目の前にいるエミの父だと知り、怒りに呑まれる。
次の日、ショウタは研究員の平賀ツムギにTK大のホームページをハッキングさせ、隅田エミの整形前と整形後の顔を掲載する
血の臭いが、濃く講義室に充満する。エミは目を見開き、辺りに何か武器になるものはないか探した。檻のガラスの大きな破片があったが、腰を痛めているエミにとって、それはすぐに取りに行ける距離になかった。マイクが左の手元にあったが、彼女は腕に多くの傷を負っているので、それを使って殴る事すらできない。だか、エミの右横約一メートルほど先にタケルが先ほど一匹目の猿と対峙した際に折った鋭い前歯が落ちていた。それなら猿が跳びかかってきた時にカウンターとして攻撃できるのではないかと考え、意思決定を即下した。エミはゆっくりと手を伸ばす。猿は一歩前に出る。折れてた前歯をしっかり掴み、鋭利な先端を猿へ向ける。
『フーッ…!フーッ…!フッ…!ギャァアア!!!!』
猿はエミの予想通り跳びかかってきた。鼓膜の張り裂けそうな音波に彼女は怯まず、最後の力を振り絞って猿の胸へと歯を突き刺した。
『ギャァアアアァァ……。』
心臓の潰れた猿は息絶えた。
自らの最大の武器である歯が胸に刺さり、死を迎えるとは何とも皮肉なものである。
”いや、それは根本から間違っているのかもしれない。
他者によって力を与えることも、
与えられたそのまた他者の武器を使うのも
さすれば己の身を滅ぼすだろう。”
跳びかかり際、勢いに乗っていた猿の腕は、胸に歯が突き刺さった反動で前へ大きく弧を描いて振り下ろされたのだ。長く黒いその爪は、一人の少女の右額から左顎を掠めた。それでも皮膚は勢いよく断裂し、燎原の火の如く血が吹き出る。エミの意識は、とうに飛んでいた。
外の雨は、弱まる兆しはまるで見えない。
警察や救急隊が講義室に着くと即座にエミやタケル、その他の被害者たちはTK大学医学部キャンパスの正面に位置する、首都東京国際総合病院へ搬送された。死亡者は誰一人でなかったため、聖堂氏は安堵のため息をついていた。そして、彼は被害にあった新入生全員の保護者へ謝罪のメールを送信した。
[突然のメールを失礼いたします。私は首都東京国際総合病院の院長である聖堂シンと申します。この度は、私の身勝手な講義室での実験により多くの被害を新入生の皆様へ齎してしまいました。大変申し訳ございません。幸い、死者は誰一人出ませんでしたが、怪我に合われた多くの生徒様への謝罪をさせていただきたく存じます。メンタルケアと健康診断、その他の治療は私の方で負担させていただきたいと思いますので、今後ともよろしくお願いいたします。再度、この度は大変申し訳ございませんでした。]
彼は入院が必要な生徒と、簡易的な処置で済む者、精神状態の不安定な者へのカルテの確認を看護師からお願いされた。
「入院が必要な生徒は隅田エミさんと平タケルさんの二名、簡易的な受診、治療で済む生徒さんは遠山カナエさん、永山サツキさんと日比野ユウタさんの三名、メンタルケアが必要な生徒さんはここに置いてあるカルテの十名になります。計十五名の生徒さんの報告でした。」
「ん?君今、隅田エミと言ったかね?」
「はい、エミさんは入院が必要な生徒さんです。先ほど緊急手術を終えて今は病室で休んでいると思います。」
「場所を教えてくれるかな?」
「405号室です。ご友人ですか?」
「昔の知り合いの娘かもしれない」
聖堂氏は険しい顔をしてエミの病室へと向かった。
「父上!^^;そこの綺麗な看護師さん!^^;父上はどこにいるかご存知か!^^;」
講義での事故の知らせを受けた聖堂ショウタは、病院へと駆け付けていた。そして看護師に聖堂シンの居場所を聞いた。
「あら、ショウタさん!聖堂院長なら今405号室にいらっしゃってますよ。」
「わかった!^^ありがとう!^^」
すぐさま、隅田エミの病室である、405号室へと向かった。
405室の勢いよく開けたショウタは、ベッドの横にこちらに背を向けて立っているシンへ話しかけた。
「父上^^!!!!お怪我はありませんでしたか!!!!!???^^;」
シンはゆっくりと顔をショウタへ向けた。
「私は大丈夫だ。ショウタ、お前に話がある。こちらへ来い。」
その病室のベッドの横へショウタを来させた。ショウタは、そのベッドで寝ている人物の顔を覗き込んだ。
「ハッッッッッ……!!!^^;この片は昨日の冷酷美少女ではないですか^^;こんな顔に傷が、、ああッ……^^;」
「ショウタ、君はこの女の知り合いか?」
「昨日、僕が道で声をかけた女性です。お茶しようと誘いましたが、断られました。。^^;」
「そうか。ひとまず病室を出よう。」
シンとショウタは病室を出た。誰もいない廊下を二人で歩いた。
「あの女の顔はお面にすぎないのだよ。」
「……と、いいますと…?^^;」
シンはショウタにカルテの、『手術記録』という欄を指さした。今年の一月下旬にこの総合病院の美容整形外科で手術を受けていたことが分かった。手術内容は、『脂肪吸引』、『二重まぶた切開』『頬、エラを含む上下顎骨切り』などの顔の整形であった。約二カ月間にわたり入院し、どんな男も魅了し、虜にしてしまう顔を手に入れたのだ。ショウタは衝撃を隠せず、肝がつぶれる思いである。
「それに隅田エミは、私の妻である聖堂ミズカをこの世から消し去った男、隅田セイジロウの娘だ。」
「……あの女の父親が母上を殺した……隅田セイジロウ……。」
ショウタは予想外の事実に困惑、混乱し、脳内でそれらの情報の収集がつかない。
「ここで一つ君に頼みがある。君にしかできない仕事だ。」
シンはショウタの目をまっすぐ見つめてこう言った。
「隅田エミの正体を、仮面を剥いだ姿を学校中に知らしめてくれ。」
「父上……?それになんの意図が……?^^;」
「私は隅田セイジロウから、この女は中学の頃酷くいじめられていた事があるという話を聞いたことがある。整形していることを知れば無意味に嫌われるであろう。もう一度地獄を見るといい。私は隅田セイジロウを許さない。決して許しはしない。……この想い、汲み取ってくれるかね?ショウタよ。」
「了解しました^^もちろんです父上^^」
その晩、ショウタは研究員の平賀ツムギと協力し、TK大学のホームページをハッキングした。TK大学の本校舎の画像を、エミの整形前と整形後の比較できる顔写真へと変えた。説明文には、『話題の新入生、隅田エミの整形前後の比較画像!』と書いてある。
「ショウタさん、やってること若干幼稚じゃないですか?なんか」
「うるさい!^^クビにするぞ!^^」
「こわこわ、でもこんなんでいいんでしょうか?」
「ああ^^」
「ういうい」
平賀は若干不服そうにしながら、写真を設定したあとにパソコンを閉じた。
ショウタは盗難車によって連れ去られた。
それは病院から自宅へ向かう際の出来事であった。
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