1.1.4 研究結果

聖堂シンはマイクを手に取った。

 「朝早くからお集まりいただきありがとうございます。TK大学医学部、農学部のキャンパスの丁度隣に位置する、首都東京国際総合病院院長の聖堂です。この場を設けていただいたのには訳があるのです。」

聖堂は大きく息を吸った。エミは少しばかり緊張していた。動物のにおいがするので、何か新種を見つけたのか?と彼女なりに予想を立てていた。

 「一昨年、私の研究チームがある動物に新しい器官が生成されていたのを発見いたしました。その器官のことを二年間研究しつくした成果、それについての講義を、是非とも栄えある君たち、新入生一同に聞かせたいと、そう思った次第であります。」

エミの予想は外れたが面白そうな講義の内容に目を引き付けられた。感謝の意とその訳を謙虚に、丁寧に解説した聖堂が右手を掲げると、彼の後ろの大きなスクリーンにハツカネズミの写真が映し出された。

 「マウスは哺乳類の中で最小です。人間と生命活動が酷似している上、繁殖のスピードも遥かに速い。それゆえにうちの研究チームは実験用としてマウスをこのTK大学の生物飼育館で育てていました。もちろん、爬虫類などの餌要因や医学部の実験材料として、無料でTK大学に提供していました。しかしあるとき、私の研究員の一人が、通常では考えられないような大きさの歯を持つハツカネズミを発見したのです。つまりそれは、突然変異体です。」

聖堂はスライドを切り替え、発見したとみられるハツカネズミの写真を皆に披露した。生徒たちは皆、目を輝かせて講義を聞いている。聖堂は続ける。

 「更にその個体は同じ部屋で飼育していた仲間であるはずの他のネズミを食べていました。試験的に、そのとても奇妙な、まるでビーバーのような巨大な門歯を持ち、且つ獰猛なネズミの遺伝子を抽出し、人工的に子供の個体を作り上げることに成功いたました。すると驚くことにその子供も又同様の巨大な前歯が生えてきたのです。」

エミや他の生徒の多くは歓声をあげ、興奮状態を極めている。エミの隣の席に座っているケンスケは腕を組みながら居眠りをしている。後ろの列の席のタケルは興味無さ気に窓から外を見つめていた。黒い大きな雲が太陽を覆った。

 「そこで私はその大きな前歯の生えてくるメカニズムを解明すべく、その親ハツカネズミをX線検査にかけてみました。するとどうでしょう。」

話を続けながら聖堂は、後ろのスライドを切り替えた。それはその獰猛なハツカネズミと、普通のハツカネズミの頭蓋骨がくっきりと映ったレントゲン写真だった。比較できるように同じスライド上に載せられている。親ハツカネズミの上顎、歯茎の上部にある白い影に赤い丸がつけられている。

 「この赤丸で囲まれている部分、この白い影は通常個体のハツカネズミにはありません。その獰猛なハツカネズミの子供にも同じような白い影が見られました。つまりこの白い影こそが歯を巨大に成長させ、性格も凶暴になってしまう秘密なのではないかという事です。そこで私たち研究チームはこの白い陰を解剖して取り出してみました。するとそれはまるで一つの内臓のような働きをする器官だったことが判明しました。その器官の中はまだ酸素の多い血と、ある特殊なエキスで満たされていました。つまり、肺で酸素を受けた血は一度心臓へと戻り、大動脈を通り全身へと送られます。この器官はその動脈を通った血から栄養を取り入れ、その栄養を使ってあるそのエキスをつくり、歯茎の細胞組織、歯根へと直接送っていたのです。」


外で雨がポツポツと降り始めた。

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