綿雨さんと思春期
「ゆうくん、おかえりなさい」
学校から帰ると、優一の部屋に綿雨さんがいた。
「あの、前にも言ったと思うんですけど」
「何がですか?」
綿雨さんは可愛らしく首を傾げる。
「ボクの部屋に勝手に入らないでもらえますか?」
「なんでですか?」
綿雨さんはまたも首を傾げる。
しかも、さっきとは逆の方向にだ。
とても可愛い。
「なんでって、そりゃ、人の部屋には勝手に入っちゃいけないでしょ?」
「でもここ、私の家ですよ?」
優一は住まわせてもらっている身なのでそれを言われると言い返せない。
「私に見られちゃまずいものでもあるんですか?」
綿雨さんは小悪魔的な表情を浮かべながら、本棚を眺める。
優一は慌てて立ち上がり、綿雨さんに座るように促す。
「み、見られちゃまずいものなんて、あるわけないじゃないですか!」
「まぁ、そうよね。なにしろ、ゆうくんが使えるお金は私があげているおこずかいだし……。それを見られちゃまずいものに使うなんて、ありえないですよね♡」
平然を装っているようだが、明らかに口角が上がっている。
だが、そこまで言うと、綿雨さんは大人しく座り直し、置いてあったペットボトルを掴む。
「あ、それ、ボクの」
「いいじゃないですか♡
喉が渇いてしまって……」
そう言ってペットボトルの水を飲み干した。いい飲みっぷりだ。
「ごちそうさまでした♡」
綿雨さんはペットボトルをゴミ箱に捨てる。
そしてその場で立ち止まり、
「……ところで」
綿雨さんは服の内から何かを取り出す。
「これは何でしょう?」
「そ、それは!?」
綿雨さんが持つそれは、少し分厚目の本。
ブックカバーが丁寧につけられている。
「ボクのエロ本!?」
「へ?」
綿雨さんはキョトンとしているように見える。
だが、優一は構わずに綿雨さんに詰め寄る。
「か、返してください、ボクのエロ本!」
「だ、だから……」
「エロ本を返せ〜!」
「エロ本エロ本って、うるさいですよっ!」
ついに綿雨さんは真っ赤になって叫んだ。
「こ、これはそんな、ハレンチなものじゃありませんっ!」
そう言うと綿雨さんは本を開いて中を見せる。
文字がズラッと並んでいる。それに内容は哲学。
「な、なんだ……小説かぁ」
「もぉ、ゆうくんは焦りすぎです!」
まだほのかに頬が赤い綿雨さんが、優一に注意する。
「でも……」
しかし、綿雨さんはすぐにまた小悪魔的な表情を浮かべてつぶやく。
「ゆうくんがエッチなのを持っていることは、分かりましたね♡」
「あ……」
やってしまったと思った優一であった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
日記
この後、部屋をくまなく捜索され、3冊のエロ本が綿雨さんの手によって捕獲された。
だが、まだまだ甘手である。
まだまだ残機は残っている。
明日からの部屋の警備を強化しようと思う。
P.S.
綿雨さんは捕獲したエロ本を書斎に隠しているようだ。
どうやら少し中を確認していたようだが……それは気にしないでおこうと思う。
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