05. ホワイトハッカー

「賞金稼ぎ……?」

「いわゆるホワイトハッカーってやつさ。非合法なことも、ちっとはするけどな」


 鏡花がソファに寝転んで、二十個以上はありそうな壁のメダルを指さす。


「あれらは警察とかから貰った勲章だ。私らの成果数みたいなもんだな」


 そんな凄い物なのにもかかわらず、小学生の昆虫標本みたいに無造作かつ見栄え悪く壁に掛けられいる。

 金が全てなのか、勲章に対する愛はないらしい。


「それがどういうわけで設計図を?」

「元はカトレアのスカウトが目的だったんだが、まさかの誘拐されたときた。カトレアの場所を突き止めてからというもの、全身ギタイのことも見えてきてな。ま、その他もろもろはついでで、乗りかかった船ってやつさ」

「相手ってのは?」


 ここまで聞いてしまえば、僕としても乗りかかった船というやつで、鏡花に訊ねる。


「そうだな。一度カトレアは殺されてるようなもんだし、知る権利はあるだろ」


 鏡花はタチアナに向かって、構わないだろとでも言いたげに目配せをしたが、当のタチアナが閉口してしまう。

 鏡花は困ったような顔を一瞬見せたが、真面目な顔に戻って口火を切った。


「お前が捕まったのは大鐘組って呼ばれてるヤクザの組織だ」


 知らない名前だった。裏の世界なんざ、ちっともわからないから当然だ。


「ただ、その大鐘組の奴らよりも、バックにもっとでかいのがいそうな気がしてな……胸がざわつくんだよ」


 鏡花は起き上がり、低めの声でこういった。


「おまえらが追っかけられてた、あの車。あれはイギリスの外交車だ」

「どうしてわかったの?」


 タチアナが驚いた様子で鏡花に訊ねる。察するに、タチアナも知らなかったようだ。


「外ナンバーは国ごとによって先頭二桁の番号が違うんだよ。偽造の可能性もあるから、詳しくはナンバーを割り出して調べてみないとな」


 そう言って、鏡花は何かを探すように部屋をぐるりと見渡し、


「そういえば、ツバキはどこいったんだ? どこにも居ねーみたいだが」

「青木のおじいさんのとこ」


 いままで黙っていたリコが短く答えると、 鏡花は真面目な顔を崩して苦々しい顔をした。


「はあ!? あのジジイのところへ何も言わずにいっちまったのかツバキは」

「さっきツバキから連絡があった。HELPって」

「なんで英語なんだよ」


 鏡花のツッコミにリコは「さぁ」と言って首をかしげる。確かに謎だ。


「あの人ったら、こんなときになにしてくれるのよ……。鏡花が迎えに行く?」


 タチアナが気難しそうな顔で額に手を当てる。

 二人の反応を見る限り、どうも面倒な相手らしい。


「あー、私はパス」


 鏡花はやる気なさそうに再びソファに寝そべり、


「じゃあ――」

「ゲームの続きしないと」


 タチアナが言い終えるよりも先に、リコはサーバールームに戻っていってしまった。


「はぁ、しょうがないわね。あたしらで迎えに行きましょうか」


 タチアナはやれやれとつぶやきながら立ち上がる。

 行かないの? といったような視線がこちらに送られ、『あたしら』の勘定に僕が含まれていることに遅れて気づく。


「僕が外を出歩くのはまずいんじゃ……」


 心配もあるが、正直なところみんなの反応を見て気乗りしないだけだ。


「あたしやツバキがそばにいれば大丈夫。そんなに心配しなくていいわよ」


 オートマタであるツバキはともかく、タチアナに守ってもらうというのは男が廃る気がする。

 ……よくよく考えれば、既に廃ってしまっていた。

 自嘲気味に笑って、僕はソファから立ち上がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る