6
学校はあっという間に夏休みに入った。
どっさり課題が出てうんざりしていたが、夏祭りのことを思うとなぜかやる気が出た。どうやら僕はなんだかんだ言って夏祭りを楽しみにしているらしかった。
今日の僕は読書感想文の本を探しに、駅の近くにある図書館を訪れていた。
最近、理由を付けてはこの街に来ている気がする。今日だって近場の本屋で買う、という手もあったのに買うのは高いから、とここまで来ている自分がいた。
最近なんか変だな、と思いつつ僕は日本文学のコーナーをうろうろする。久しぶりに来た図書館には本の匂いが充満していて、気持ちよかった。結局、どの本にも興味が湧かなくて、僕は海外文学のコーナーに移動する。原文じゃなくて、訳してるやつなら読めるし、それもアリかな。僕は数冊手に取ってみては元に戻すのを繰り返す。しばらくして、なんとなく惹かれた本を選び出し、貸し出しの手続きをした。僕は本をバックパックに仕舞い、図書館から出る。
「累ちゃん!」
「え?」
名前を呼ばれて、咄嗟に振り向く。僕の背後には、元気よく手を振る光希くんと知希がいた。光希くんの手には、ここの図書館の名前の入った不織布で出来たカバンが握られていた。どうやらふたりもここにいたらしい。
「図書館来てたんだ」
「知希は読書感想文やった?」
「お兄ちゃんねー、三年くらい前にまとめて数年分書いたんだよ」
「うわっ。それアリかよ」
「まあナシだろーな。だってめんどくさいじゃん」
「毎年真面目にやってる僕が馬鹿みたいだ……」
「まあそう言わずに。部活で忙しいんだよ」
「あっそ」
それから僕たちは駅まで一緒に歩く。
駅の中は夏休みということも相まって、若者で溢れていた。他の県ならごった返すくらいの観光客がいるのかもしれないが、この県には残念ながらほとんど来ないのだ。故に駅は若者の格好の遊び場だった。
駅で買い物してみたいけど、リスキーだよなぁ。僕は男物のショーウインドーをさりげなく観察する。
「……っ!」
僕は彼らを見つめたまま、思わず足を止める。
視線の先には、見覚えのある制服を着た男女の高校生。
「累?どした?」
知希が僕の見ていた方を向く。
特段変わったものが見当たらなかったのか、怪訝そうな顔をしていた。
「なんでもない」
声が上ずっていた。
僕は知希から視線を外す。動揺を悟られたくなかった。
すると知希が突然僕の肩を掴み、無理矢理、視線を合わせてくる。
「言え、累」
「嫌だ」
僕が頑として言わないつもりなのを悟った知希は溜息を吐くと、「光希、カフェ寄ってくぞ」と言った。それを聞いた光希くんは目を輝かせる。
「わーい!カフェ行く~!」
少し先を歩いていた光希くんが駆け戻ってくる。
「累ちゃんも来るよね?」
僕が黙ったまま立ち止まっているのを見た光希くんが僕の顔を覗き込むように訊く。
「うん」
僕は光希くんに連れられて、近くのカフェに立ち入った。店内に入った時は満席だったが、運よく席が空き、僕たちは席に着いた。
「で、誰、さっきの」
「……」
「近くにいたカップル見てたんだろ。誰?」
「沙苗だよ……」
「は?」
「僕の初恋の人」
知希はそれから何も言わなかった。
八月の頭、祭り当日。
燃えるような夕焼けに急かされて、私は速足になった。
夕焼けを前にするといつも心がざわざわした。
浴衣を着た私は慣れない下駄を履いて、小野寺家に向かっていた。そこで小野寺兄弟と合流する約束なのだ。
待ち合わせの十分前を目指して小野寺家に来たはずなのに、既に小野寺兄弟は、外で私を待っていた。
「早いね」
「まあね」
「累ちゃん可愛いー‼」
「あはは。誉めてもないも出ないよ?あ、光希くんも甚平着たんだね!」
光希君は青い甚平を、知希は黒い浴衣を着ていた。知希は浴衣がむずがゆいようで、居心地が悪そうだ。光希君は腕をぶんぶん振って、私の前でくるりと回転した。
「うん!お父さんが買ってくれたんだよ!」
「へえ!良かったね!すごい似合ってる」
行こうか、と知希に促され、私たちは歩き出す。
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