わたし邪神!あなたを殺しに来たわ!

@yomdayo

第1話 神様は大変です。

「一回滅んだはずの星が豊かになって人も生まれたからお前管理してきて」

「へ?」


 そこは神々の暮らす神界


 神々にも格というものがあり、自分より上の格を持つ神には絶対服従である。

 絶対服従である。


 下っ端に厳しい世の中なのだ。


「えと、まじすか? 今から?」

「まじまじ大真面。下級の神に頼むとかだめだからな? お前がやれ」


 そんなぁ。星の管理ってめちゃくちゃ大変だったよな? 人間もいるし。めんどくさいよーだるいよー! なんてもん押し付けてくれたんだこの上司!ばーかばーか! アフロディーテに6回も求愛して全部断られてる癖に! それで拗らせたのかストーカーになってる癖に! 普通にキモいぞ! ばーかばーか!


「お前俺が心読めるってわかっててそれなの?

俺、お前より格、上よ?

お前とかまじ一瞬よ?

スッといってドスよ?

つーかなんでおれが求愛したの知ってるの?

求愛した回数まで。どこ情報?

あと決してストーカーとかじゃねぇかんな?

どんな神が好みな『いってきまーす!』


聞いてえええお願い!!

せめて言い訳は聞いてってよお願いだからさあああああああああ!!」





 ……絶対服従である。






「なんだよ、この星。ありえない」


この星の管理?

むしろ管理させてくれるのかね?


ポケットから携帯を取り出しこんな星を管理しろとか言うくそ上司に電話をかける。


……


「もしもし我が敬愛なる……ぺっ! くそ上司様。

なんなんすかこの星」

「今唾吐かなかった?

後くそ上司は聞かなかった事にしてやる。

……まぁ、言いたいことはわかる」

「この星、神いらないですよね?」

「……」



 星というものはいつか、どこかで生まれ、無意識で生命を生み出す機械となる。

 生み出された生命は自分がなにかもわからず死んでゆく。無垢なまま、純真なまま。そして、魂となり彷徨う。星はいつの日か知能を持つ生命を生み出す。その生命もいつかは死んで魂となる。


 悪意を持つ魂として。


 無垢な彷徨う魂はその悪意に汚され染まる。


 悪意は何千、何万、何億もの長い時をかけて広まってゆく。


 やがてそれは1つになる。


 悪意の塊。


 それは質量をもって顕現する。


 悪神の誕生である。





 遠い昔、とある星で顕現した悪神によって10万もの神が殺された。星のある場所と神界は文字通り次元が違う。星側から神界へ干渉することができない。


 だが奴は当たり前の様に飛び越えてきた。

 徒歩で。


 当時いた神の半数以上が殺されたのだ。たった1体の悪神に。


 悪神は顕現してからその身が朽ちるまで無差別に破壊の限りを尽くす。死を伴いながら。


 それからである。


 神は、神界と生まれた星の間、狭間という場所で星を監視する。生命が死んだらその魂を回収、そして生まれた生命に回収した魂を封じこめる。その繰り返し。繰り返された事によって強くなった魂は悪意を浄化され、新たな神となる。


 それが、神の行う星の管理。


 なのだが……


「この星、悪意のある魂、1つもないですよ?

星自体が魂を回収してます。さらに、生命の死因、死期まで決まっている。

さらにさらに、回収した魂を新たな生命として転生させている。

ね? この星、完全に意思があります。

僕達神の必要性皆無です」


「その星が我々を呼んだんだよ」


「星が呼んだ?」


「ああ、神のお告げとして人間1人1人に確定した死を伝えろ、とのことだ」


「はぁ!? なぜ!?」


「わからん。だがそれをやらないと

神もコロっと殺れちゃう我が自慢の代行者をそっちにけしかけるぞ☆と脅されている」


「えぇ……なにこのヤクザ星」


「消し飛ばしてやりたいところだが……

中位の神が管理が面倒になり、あっち側に顕現して星を壊そうとしたら星が無意識で別種のナニカを生み出して返り討ちにされ消滅しました。

なんて事が実際にあったからな。

ほんとーにちっぽけな星でそれだぜ?

神界にまで意思を伝えられるような星でそんなことをすれば……

考えるだけで恐ろしい。

あっち側だと俺達の力もかなり落ちるからな」


「……なんでそんな強大になるまで放置してたんですか?」


「このヤクザ星はな1回完全に滅んだんだ。

生命を生み出す機能も死んで。

あとは朽ちるだけだった。

だったんだがなぁ……

いつの間にかオラオラ系ヤクザ星になってた。

こいつから意思が伝えられるまで忘れてたくらいだ」


 珍しく本気で沈んだ声だ。ちょっと面白い。


「お前は本当に……携帯越しでも心読めんだかんな?」


 え!? まじで!? はつみみー。


「最高神なめすぎじゃねお前……とりあえず頼んだぞ? 手が空いてて頼めそうな神お前だけなんだから」

「あいあい、分かりました。やりますよやったりますよ」


 電話を切る

 

 すると、



 …………




 全部見ているぞ……ね


 電話を切ったと同時に頭に流れ込んできた何億もの人、死因、死ぬ瞬間の映像。



「はぁ……ひと段落したら美味しい物食べに行こう」


 さぁ働こう。






「ゴンゴ・ウンゴさん

あなたはなんやかんやあって浮気し、なんやかんやあって浮気相手と妻に刺されて死ぬでしょう」


 死ぬ瞬間の映像をゴンゴ・ウンゴの頭に流す。


「それではー『ちょ!まって!そのなんやかんや!なんやかんやの部分なにがあっ』良き人生をー」



 これで死ぬ寸前の奴は全て終わったか……あとは……


 あ、だめだ。これ、死ぬ。過労死、過労死してまう、人多すぎ……終わる気配がない。

 なんでこんな量の人間を僕一人でお告げしなきゃなんないのさ!!! もっと神をよこせ! 神を!!!

 ……僕以外にいないんだったな。


 ……あっ! そうか! 増やせばいいのか! できるじゃん! 僕!


「それじゃあ早速……分身! 分身! 分身! 分身! 分身! 分身! 分身! 分身! 分身! 分身! 分身! 分身! 分身! ……」


ふっふっふっ……これで少しは楽になるだろう! さぁ! 働き給えよ僕達!!




……これが原因で更なる苦労に見舞われる事になるとは露ほども思わなかった。







 ヤクザ星にて……



「ふぅ、今日の仕事終わりっと」


 独り身が長い為か、すっかり多くなった独り言を零しつつ畑仕事を終えた満足感に浸る。


 汗もよく掻いた。


 バックから水筒を取り出し水を飲む。


「……ぬるい」


 燦々と熱を振り撒く太陽に照りつけられ、すっかりぬるくなっていた。


「こんな時に魔法でも使えればねぇ」


 尤も、それは叶わぬ願いだが


「すてーたす」


 そう唱えると頭に文字列が浮かび上がる。



[名前:レウス・ヴォーロス


性別:男


年齢:25


職業:農民


レベル:116


体力:308/308


魔力:50/50


攻撃力:281


守備力:10


知力:0


俊敏:13


魔法適正:なし


魔法:なし


スキル:高速作業




担当:**の*



****]


 相変わらず魔法適正は、なし。

普通だったら最低でもEはあるらしいのだが……

 なし、て。

 なしって! この有り余った魔力の意味!!

 そして知力0ってなに? 魔法が使えないからだよな? 頭空っぽとかそういう意味合いじゃねーよな?


「ん?」


 改めて水を飲もうと顔を上げた。すると誰かがこちらにむかって歩いてきているのが目に映る。


 こんなところに? 誰だ?


 その誰かはこちらへと近づいている。

 ぼんやりと姿が確認できるほどの距離だ。


 女の子?


 腰まである長い黒と白の混じった髪、前髪はぱっつん。肌は白く容姿は整っているように見える。そして、何より黒い。とにかく黒い。上から下まで真っ黒である。

 ……絶対暑いだろ。その格好。


 少しの間、地面を踏みしめる音だけが響く。


 そして


「見つけた」


 ?


 ついには自分の目の前まで来た。

 ……人形みたいに恐ろしく整った顔してるな。


「こんなとこでどうした?迷子か?」


 そう問うと彼女は妖艶な笑みを浮かべ、


「初めまして、私、邪神。






つーわけで死ね!」


 握りしめた拳をこちらに突き出してくる。


 どういう訳だ!?


「えっ、なにー突然?」


ひたすらに困惑する。


 いきなり顔に向けて殴ろうとしてきた謎の小娘。身長たりなくて顔まで届いていないが。殴られた痛みは全くない。貧弱である。


「ちっ! お前身長たかいな!

……駄目か。あーあー残念無念。

私の死を決定づけるなんて本当に何者?

しかもこいつ相手だと権能がなにも使えないし、星が全力だしてきてるわね。

弱体化してるくせにまだそんな力があるとは。

最後のチャンスだったのにぃぃぃ!!!


……あーーもーー!!

はぁ、これじゃどうしようもないか。

はーあーせっかく独立したのに……

神にしては短い人生だったわね。

どんまいわたし……」


 頭を掻き毟りながら喋る喋る。

 なにこの子ハイパークレイジー。


「……あなた。名前は?」


 名前聞いて来た。怖い。

 名乗っていいのだろうかこれ?


「……アミル」


「そう、あなたアミルって言うのね。

はん!! ……あなたにはあまり似合わない名前ね! あとは……うーん、あと、は……珍しい、名前ね?」


あ、多分こいつただの馬鹿だ。

偽名使ってごめん。


「さて、アミル。


私、あなたに殺されるみたいなの。

どう足掻いてもね。

だから……





あなたと私が死ぬまで



一緒に暮らすことにしたわ」




「……は?」



この時は、

何言ってんだこの頭のおかしい小娘は。

としか思わなかった。

だが、まさか本当に、




自分が死ぬまでこの小娘と暮らすことになるとは。

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