矢山行人 十五歳 夏28

 スクールバッグも持たず、僕は学校を出た。


 途中で体育を担当する教師に声をかけられたが、体調が悪いからと言った理由をこじつけた。バッグを持っていないことを咎められたが、僕はまともな返答をしなかった。

 というよりも、できなかった。


 腕を掴まれ、生徒指導室に引っ張られそうになった。

 体育の教師は僕を何度も何度も怒鳴り、それに効果がないと分かると頭を叩いた。目の奥が赤く何度も点滅した。

 僕は何かを言おうとしたが、言葉は出てこなかった。


 生徒指導室の椅子に僕は座らされた。

 目の前に体育の教師が座って、何かを言った。「これから授業だと言うのに、お前のせいで、」と教師は言った。

 僕は何も言わなかった。


 また、教師は僕の頭を殴った。


 痛みは無かった。苛立ちはあった。

 一人になりたかった。


 そこに女性の担任教師が姿を見せた。彼女が体育の教師に何かを言った。

 その意味も僕には理解できなかった。

 体育の教師が生徒指導室を出て行き、担任教師が優しい声で僕に何かを言った。

 やはり、意味は分からなかったが、これで一人になれる、と思った。


 僕はまっすぐ家に帰って、部屋に籠った。

 両親が部屋に入ってきても反応しなかった。食事を出されても食べなかった。

 トイレの時だけ立ち上がったが、基本的にベッドの端に座って僕は空中を見据えていた。


 何もする気も起きなかったし、何も考えられなかった。

 意識が浮き沈みし、気づけば部屋が暗くなっていたり、明るくなっていたりした。僕の中で時間がゆっくりと溶けているような感覚だった。


 誰かが激しくドアを二度、叩いた。僕は反応しなかった。


 ドアが開く。視線を向けなくとも誰であるかは明白だった。兄貴だ。

「おい」


 兄貴が僕の胸倉を掴んだ。


「お前、いつの服をいつまで着ているつもりだよ?」


 僕は人形のようにされるがまま、兄貴の肩から腕の横にある空間をぼんやり眺めていた。


「俺、今からお前を殴るから」


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