矢山行人 十五歳 夏26

 ところで、と僕は道子さんの用意してくれた椅子に座ったまま疑問を口にした。


「秋穂はどこで僕が寺山さんのところへ行こうとしたって知ったんだろう? 道子さん、言ったの?」


「いや、私は言ってないよ」


「だよね」


 僕は秋穂への口止め料として、七月に駄菓子屋店内の大掃除を一人でやったのだ。道子さんはいい加減なところがある人だけれど、約束したことは守ってくれる。


 なら、どうやって秋穂は知ったのか?


 表情に出たのだろう、道子さんがけらけらと笑った。


「行人、本当に悩んでいるようだけど、答えはとても簡単だよ。単純に考えなさい。秋穂は行人が行こうとしたことを知ったのではなくて、行ったことを知ったの」


 行こうとした、と行ったの違い。

 予定と結果?


 あぁ、なるほど、と僕は頷く。

「寺山凛、本人から聞いたってことですか?」


「そういうことだね。あの二人がもう少し早く仲良くなっていれば、もっと違った結果になったかも知れないねぇ」


「そんな、もしもを言っても仕方がないですけど、今からでも多分、遅くないですよ」


「そうだね」


 言って、道子さんは僕の頭をぽんぽんと触った。

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