第22話 南の島のおじいさん
おじいさんの強烈な眼力が、ぎょろりと夏菜たちを捉えて離さない。
「・・・」
緊張感がその場に張り詰める。
「お嬢ちゃんカレーは好きか」
おじいさんは、突然幸子の方を向いてにこっと笑った。
「毎日でもいいわ」
幸子は笑顔で答えた。
「ちょうど、コメが炊けたとこじゃ」
「わぁ~い」
幸子は飛び上がった。おじいさんは良い人だった。
カレーの鍋と、ご飯の入ったお釜を抱え、三人と一匹は砂浜まで踊るように出た。そして、ヤシの木陰に鍋とお釜をドカッと置くと、ヤシの殻で出来たお椀に、カレーをよそい、みんなでおじいさんの特性シーフードカレーを食べた。
「うま~い」
シーフードカレーののった木で出来たスプーンを口に入れた瞬間、幸子が叫ぶ。
「おかわりはいくらでもあるぞ」
「うん」
シーフードカレーの中には捕れたて新鮮な、様々な魚や貝、さらには大ぶりの伊勢海老まで入っていた。
「はい」
その肉厚の大ぶりな伊勢海老を、幸子はリトルベアに落としてやった。リトルベアはそれを嬉しそうにパクつく。
「夏はやっぱり、南の島でシーフードカレーね」
夏菜が満足そうに言った
「そうじゃ南の島の夏はシーフードカレーじゃ」
おじいさんも大きく頷いて言った。
「ところで、おじいさんはなんで素っ裸なの」
夏菜がおじいさんに訊いた。おじいさんはフルチンだった。
「お前たちは何で服を着ているんだ?」
おじいさんが逆に訊き返した。
「それもそうね」
夏菜は納得した。
「ゲップ」
幸子が大きなゲップしながら、大きく膨れたおなかをさすった。大きな鍋いっぱいにあったカレーも、あまりのおいしさにあっという間に底をついた。
「おじいさんはここで一人で暮らしているの?」
幸子がおじいさんに訊いた。
「そうじゃ、家族も地位も財産も何もかも全て捨ててきた」
おじいさんは晴れ晴れとした表情で言った。
「寂しくない?」
「わしは家族や友人に囲まれている時の方が孤独じゃった」
「不自由じゃない?」
「わしはこれ以上なく自由じゃ」
「不便じゃない?」
「わしは全てを捨てた。だから、今は全てがわしのものなんじゃ。こんな素晴らしいことはない」
おじいさんは、両手を目いっぱい広げ、広大な美しい海と島全体を全身で見渡した。
「今が一番幸せじゃ」
おじいさんの目は、純粋無垢な子供のように、キラキラと輝いていた。
「私たちもこの島にお世話になっていいかしら」
夏菜がおじいさんに訊いた。
「この島はわしがいる」
おじいさんは、口調を変えキッパリと言った。
「そう、残念だわ」
夏菜が仕方ないわと言った口調で言った。
「じゃが、隣りの島は空いとる」
「ありがとう。私たちはそっちへ行くわ」
「悪く思わんでくれ。わしは孤独が好きなんじゃ」
「おじいさんの孤独を邪魔してまでハンモックで寝たいとは思わないわ」
夏菜はそう言って、おじいさんを見つめ微笑んだ。
「それにこの島は、あまりたくさんは住まない方がいいんじゃ。島には島のあり方があるんじゃ」
「そうね。あなたが先客なんだから、あなたの意見に従うべきだわ」
「行きましょ」
「うん」
夏菜と幸子は立ち上がった。そして、二人はおじいさんに手を振ると隣りの島に向かって、再び森の中へと入って行った。
しばらく、うっそうとした森を突っ切り歩いて行くと、あっという間に島の反対側に出た。
「小さいんだね。この島」
幸子が言った。案外島は小さかった。
「あれだわ」
夏菜が海の方を指差した。見ると、海を隔てたすぐ向こうに隣りの島が見えた。今いる島より、更に少し小ぶりな島だった。でも、そこは立派な南の島だった。
「どうやって渡るの」
幸子が夏菜を見た。
「わたし浮き輪がないと泳げないよ」
隣りの島まではすぐそこなのだが、しっかりと海が隔てている。
「そうねぇ・・」
夏菜は両手を腰に当て、首を傾げた。
「カヌーは流れてっちゃったわ」
「う~ん・・」
夏菜は更に腕を組んで考え込んだ。
隣りの島は近いようで遠かった。
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