第25話 絶対に読んではいけない




 俺は式神のキル=ユーだ。


 これから語る物語を読んではいけない。


 この小説の世界観を根底からぶっ潰すからだ


























逃げたか?
















逃げるなら、今の内だぞ?





















 さて。物語は10年ほど前に遡る。

 世界は第三次世界大戦に突入した。

 第三次世界大戦。

 それは停滞した軍事科学力の代わりに、今まで神秘として秘匿されてぃた魔術を用いて戦われた、壮絶なる戦争であった。


 その第三次世界大戦が始まる直前。

 一人の錬金術師が魔術戦争になることを見越して、一つの兵器を作り上げようと苦心していた。



 その少年には名がない。

 後に成功体と呼ばれ、すぐに欠陥品とあだ名される少年である。


 その少年は孤児であった。

 生まれつき親の顔も知らず、異民族であるという理由から孤児院でも迫害を受けてきた。

 何度も死にかけ、ここ以上にひどい地獄などないと思っていた少年に思わぬ転機が訪れる。

 少年を養子にしたいという人が現れた。

 少年はその人物に始めてあった時、どこか歪さを感じた。

 たくましい体を隠す、小さめのスーツ。

 そのくせ、メガネをかけて知性を醸し出している。

 まるで武術と学問は一つながりであるとでも言わんばかりの人物であった。


 その人物は錬金術師であった。

 現代において魔術や錬金術など存在しえないというわけではない。

 ただ、その需要が科学にとってかわられただけであった。

 見世物くらいにはなるのだろう。

しかし、自分が檻の中の動物となりて喜ぶ人間などいはしない。



 少年は大きな古城に連れて行かれた。

 そして、そこの地下牢で一か月ほど同じ年の頃の少年たちと過ごした。

 それぞれのあだ名は、ガルマ、ジョニー、ルイズであった。


 それぞれ揶揄い合ったりしながら、牢の中で友情を育んでいった。

 一か月の間だけは。


 初めはガルマだった。

 ガルマは連れ出された後、二度と帰ってくることはなかった。

 そして、ジョニーがいなくなり、最後のルイズも少年の前から去っていった。



 そして、少年の番が来た。


 今度は違ったやり方を試してみよう。


 錬金術師はそう言った。


 錬金術師の工房は紅く染まっていた。


 見覚えのある色の髪が束になって転がっていた。



 それぞれの魂と融和性を高めるには性行為をするほかにない。


 錬金術師のもとには、少年の他に100名の少女が集められていた。

そのどれもが服を奪われ、裸体で牢に入っている。


 少年と100人の少女たちは錬金術師の言いなりになるほかになかった。


 その行為が一体何の意味を持つのかを知らないままに、行為を繰り返した。


 その合間、100人の少女たちと少年は牢の外を夢見て話し合った。


 外の学校はこんな風だ。


 父親はこんな風で、母親はこんなふうなのだと。


 少年にとっても、100人の少女にとっても、他愛のない夢想こそが絶望のそこにある牢での唯一の希望だった。




 そして、運命の日は訪れた。


 錬金術師の目的は完全なる魔導兵器の開発であった。

 魔法大戦争となれば、戦場で成果を上げた人間が次の時代の支配者となる。

 故に、錬金術師は魔導人間を開発した。


 人為的に魔術を行使できる魔導人間へと改造することは容易であった。

 それは失敗作1~3が示している。

 だが、問題は魔力の供給であった。


 一族として代々魔力の総量が多い者は問題がない。


 だが、集めた孤児は一般人であり、定着させた魔術に肉体が追いつかなかったのだ。


 かといって魔術の家系の者を使用するにはコストが高い。


 故に、錬金術で多くの魂を魔力として被検体に注ぎ込むこととした。



 そして、少年は成功例となった。


 少年の中には100人の幼馴染が宿った。


 幼い体系のまま、目を閉じれば少し背の伸びた姿を思い描くことはできる。


 だが、どの魂も似たような姿にしかならなかった。




 魂の内蔵は成功した。


 だが、ここで問題が起こる。


 本来定着させていた、他人の生命力を奪う術式が相殺されてしまっていたのだ。


 故に少年は失敗作と呼ばれるようになった。



 少年に与えられたのは呪いの一種である魔術であった。


 自身の命と等価で相手の命を奪うもの。


 錬金術という体系と、少年が錬金術によって生み出された存在であるということで、愛称は良かった。


 ただ、問題は一つの魂を消費して一人しか殺せないこと。


 つまり、100人の幼馴染の魂と少年の魂、合わせて101人しか殺せないということだった。



 少年は他人の生命力を奪えなくなったわけではなかった。


 その命令を全力で拒否したのだ。


 二度と幼馴染たちと同じ悲劇を繰り返さないために。



 少年の行動に不信を抱いたのか、錬金術師は錬金術で少年の監視役をつけた。


 そのホムンクルスは自分を少年の妹であると言った。



 そして、戦争が起こった。


 まだ完璧な魔導人間はできない。


 その場しのぎの試験体として少年を差し出せば少しは援助が得られるかもしれない。


 錬金術師が少年を戦線へと送り出そうと思っていた矢先、少年は妹を殺した。



 少年は無駄な命を奪ってしまったことを悔いた。


 だが、もう二度と己と同じ存在を作ってはならない。


 幼なじみの命と引き換えに妹の命を奪った。



 その際、少年の中に、100人の幼馴染の少女と紡いだ物語が弾けた。


 その後の錬金術師と少年を知るものはいない。


 ただ確かなのは第三次世界大戦は10年経っても未だ終わることを知らないということ。



 そして、今、少年自身の命と引き換えに魔術を行使していることだ。




 そして、俺は俺自身に疑問を持つ。


 俺は何者であるのか、と。


 幼なじみたちが作った類似の物語にはモデルが存在する。


 それは少年たちが人とのかかわりを遮断されていた故である。


 ならば、式神と呼ばれる俺は一体何者なのか。


 俺は、事細かに過去を知る俺は少年そのものだったのか。


 それとも、俺はただの創造の副産物なのか。


 もしくはこの過去は即死太郎の作った幻想なのか。




 全ては胎児の見る夢。



 そして、性を通したコミュニケーションしか教えられなかった、社会に不適合な少年の命は、今、弾けて消えた。


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