一六勝負:いちろくしょうぶ
あれから、二年の月日が流れた。
私は相変わらず大学生で、新しいアルバイト先のかつ丼チェーン店で働きながら、ゼミの課題に追われる日々だ。
両親には、ナツホにも間に入ってもらって話せるギリギリまでを話し、理解して貰えた。
マコトは何か嫌がらせをしようとしたわけではなく、彼は彼なりに私のことを本当に心配して両親に連絡を入れたそうで、私はなんだか馬鹿馬鹿しくなって怒る気も失せてしまった。
まあ立場が逆なら、私も何か犯罪が行われているとしか見ないだろうから彼を責めるのも筋違いな気がするし。
吉永さんやその旦那様とは、あれから一切連絡が取れなくなった。ナツホも同じらしいから、あの秘密のアルバイトが世に知られて旦那様の会社に迷惑が掛かることはどうあっても避けたい、ということなのだろう。
それでも私は、もう一度吉永さんに会って、旦那様と接触したかった。
記憶を頼りにあの家に一度行ってみたが、綺麗な更地なっていて管理会社の連絡先の看板が立っているだけだった。
私は諦めなかった。
今日も授業の合間を縫って、隣の県の美術館に来ている。
ノーマン・ロックウェルのテーマ展示が来ているのだ。
あの家に飾られていた唯一の美術品。
ノーマン・ロックウェルのリトグラフ「Road Block」。
この二年の間に、私が行ける範囲の美術館で二度、ノーマン・ロックウェルのテーマ展示があり、私は日程を都合してその開催期間中の殆どの日に通い詰めたが、吉永さんの姿を見つけることはできなかった。
今日は開催初日で、私は早起きして電車を乗り継ぎ、
熱心なノーマン・ロックウェルファンというのはそんなに人数がいないようで、私は貸し切り状態でノーマン・ロックウェル氏の作品の数々やその製作風景の展示などを楽しみ、パンフレットと絵葉書を買って、ロビーに隣接した喫茶店の一席に
コーヒーとケーキを頼み、ロビーを通過する人々に吉永さんの姿がないか見張る。
追加の注文をしたり、混んで来たらロビーのソファーに居場所を変えたりしながら、閉館時間まで。
それを開催期間中、毎日繰り返すのだ。
馬鹿げた賭けだと言えた。
二年間、私の冷静な部分は、私を
だけど私のもっと中心に近い部分、魂の底の方の部分が私を突き動かしていた。
オッズを見積もる手間さえ惜しまれるような成立しない馬鹿げた賭け。
日も傾き、閉館時間も迫る夕方に近い時間帯。
私は二年を費やして、ついにその日、その賭けに勝ったのだった。
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