第13話
ゲルギオスの登場はソフィアにとって完全に予期せぬ事態だった。永劫に続くと思っていたこの世界の平和が崩れてしまうかもしれない。ずっとずっと切望していた誰とも争わず、自分らしくいられるこの世界が危機に瀕しているのだ。
「あたしに今できること……」
勇人と別れたあと、帰路の道程でソフィアはずっとそのことを考えていた。もちろん、勇人と役割を分担したことを忘れたわけでない。呪術の解析はエレナとともに行うつもりである。だが、それ以上に自分にできることはないか、そう強く思うのだ。
思い返してみれば、今までの自分はただ奪うだけだった。魔王討伐を掲げた挑戦者たちを悉く葬り去ってきた。この身体に流れる魔族の血が導く戦いから逃れることはできない。だからこそ、ソフィアは思うのだ。
――自分に奪う以外のことができないか、と。
「あたしにも守るものできたんだ」
その意味を噛み締めるように言葉にする。もちろん、魔族を束ねる女帝として彼らも守る存在ではあった。だが、そこに自らの意志が介在していたかと問われると、素直に首を縦に振ることはできない。
自発的に誰かを守りたいとそう思えたのはアルカディアにいた頃も含めて、この世界に来てから多くの人と関わってからだ。気さくな友人やいつも優しく、時には厳しい両親。それ以外にも自分らしく振る舞える人たちは大勢いる。抗うことすら許されない宿命から解き放たれて、自由に生きられる世界がここにあるのだ。ずっとずっと探し求めていた理想郷がこの世界なのだ。
「大悪魔だろうと、絶対にこの世界を守ってみせる。――たとえこの身を犠牲にしてでも」
ふぅっと息を吐いてソフィアは漆黒の空に浮かぶ月を見上げる。この世界の月と呼ばれるものはとても純白で美しい。その下で少女は決意する。
月下の少女の決意はとても固く、決して崩れるようなことはないだろう。
そんな少女のもとに差出人が不明のメールが届く。ポケットに入ったスマートフォンが静かに受信したメールに少女は気付かない。その差出人不明が意味するところを少女が理解するのはしばらくあとのことだった。
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