第22話パーティー


「よし、じゃあ次はパーティー構成だな」


 合流を果たした俺たちは、一応このゲームを遊んでみようと、クエストなるものを受けることとなった。流れであるものの、一応手筈を整え、死なないように工夫を凝らさなくてはならない。手にモノを持つ感覚があり、かつ体力も現実そのものなので、きっと死ぬと死ぬほど痛いだろう。それは勘弁願いたい。そのために死なない工夫と効率重視のパーティー構成を考えなければならない。


「んじゃ、みんなの種族値の確認からだな」


 二人はこういうのは得意そうではないので、俺が仕切り調整を加えていく。


「それじゃ、ステータスカードを見せてくれ」


 三人揃ってステータスカードなるものを提示する。

 ステータスカードには体力や魔力のほかに、防御力、筋力、知力、精神力、俊敏性、器用さ、話術、運、etc…とTRPG(テーブルトークロールプレイングゲーム)ばりの充実さを持っており、細やかに数値が割り振られていた。


 そんなわけで一人ずつステータスを確認していく。


 スフレのステータスは、体力は平均よりも少なく、筋力、精神力、俊敏性、も劣るが器用さと運がずば抜けて数値が高く、魔力に関してはカンスト(カウンターストップ)していた。


 むしろ、表示がバグってステータスカードをはみ出していた。チートだろ。

あえて気にしないではいたが、話術の数値は、平均よりうんと下回っていた。

スフレはあの時頑張ったのか……。


 シュゼのステータスはスフレと似通っており、魔力のステータスがバグっている他、精神力が意外にも高い数値であった。


 最後に俺、どれを見るにも一般的、というより平均以下が目立つ。


「なんだか、就職適性検査でもやっているようだ」


 まだまだ遠い話と思いつつ、知り合いの先輩などでは三回生から就活を始めることもあるようで、じつに、気を休められない話題と意図せずなってしまった。

 俺のステータスを見てかけたけた笑う様子が伺える。


「あなた、見た目通りのステータスね(笑)」

「笑うんじゃねぇ、傷ついたじゃねぇか!」

「あら、きずつくの?」

「傷つくわ!」


 笑いをこらえることもせずに言う。


「ま、まあそんなに気にしないでください」

「そーだよ。現実に魔力や防御力のステータスなんてないんだからさ」


 防御力というより耐性だろうか。何に対しての設定なのか記述がないことをGMに対して文句を言っておこう。


「それにしても体力が少ないのは、ちょっと心配かなぁ」


 いつの間にか奪われていた俺のステータスカードを指して言う。


「なんなら体力トレーニングに付き合ってあげようか? 走るでもいいし、筋トレとかストレッチとか、一緒にやってあげるよ?」


 能天気である。


「か、考えておく」


 少しばかりか頬が熱くなるのを覚えたが、体力が無くなってきたことには、自分なりにも嫌気がさしていた。始めるにはタイミングと都合がよかった。それだけだ。


「それじゃ、職業をきめていきたいのだけど……」


 いつの間にか仕切られていた。


「こういうのってどこを見て決めたらいいの?」


 やっぱ、だめだった。


「そうだな、基本的には強みを生かせる職業を選ぶといいんじゃないか?」


 本気で就職について考えている気分になってきた。


「例えば、スフレとシュゼは魔力に長けているから、魔法を使える職業なのは確定だろ? そこから次に多いステータスをみて……スフレは知力と器用さと運………うーん」


 わからん。はっきり言ってステータスの有利不利はゲームによるので、まずはゲーム性をしっかり把握することが最適解である。


「大体、このゲームには何の職業があるんだ? まずそれを確かめないと話が進められん」

「誰かに聞いてみたらわかるかしら」


 そう言い、立ち上がるスフレ。そうして、談笑に花を咲かせる冒険者一行のテーブルへと駆けていった。




 数分後。ぐすんと、洟をすするスフレが帰ってきた。どうやら何も情報は引き出せなかったらしい。こいつの話術に対するステータスが平均より低いことが、さっそく露呈した。


 なんかわかりやすい一覧でもあればいいのだが、すでにゲーム的なチュートリアルを終えた俺たちに対しては、この世界は少しばかりか厳しかった。




 困ってしまった。あれほど自信にあふれていたはずのスフレの顔から、一切のやる気を感じなくなっていた。


「もう……いいのよ。別にわざわざクエストいかなくても帰れるし、冒険者にならなくても、魔王をたおさなくても、この町の危機を救わなくても帰れるし……別にもういいのよ……」


 らしくないことを言い始めた。会話で言い負かされると精神的にキツイのは分かるけど、そこは何とか耐えてくれ。ゲームなのだから。


 きっとこのゲームはスフレが満足するか、飽きたら終わるのだろうな。こうしてまた荒廃した異世界が出来上がるわけか。そりゃ、悪魔も苦労するわけだ。


 廃界した異世界が増え続けると、世界の記憶領域が不足してしまい、俺の生きている現実世界のほかに様々な平行世界に悪影響が出てしまうようだ。


 ただ、そうなってしまうかは、今ここでゲームをクリアしたからと言って解消するわけではない。スフレがこの世界を作り出した時点で、世界の容量は圧迫されていく。ほんと、天使の存在とはなんなのだろうな。


 見かねた老人が助け舟を出してくれることもなく、美人の受付嬢がにこやかに微笑んでくれるわけでもなく。ただ、時間だけが過ぎていく。


 何しに来たんだ一体……。



 ――唯一の頼みは。

 俺たちはギルドを後にして、あのおばちゃんのところに出向いた。

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