第7話お買い物2
「なあスフレ、俺とお前の関係ってどうやって説明するんだ?」
ふとした疑問、おそらく誰かの知り合いがこの家に上がり込んだ時、真っ先に疑われるであろう。現段階では部屋の主ではなく、部屋自身が人を寄せ付けようともしないわけだが。
一応念のため、ある程度説明がつくような筋合わせをしておきたい。
「あらかじめ主の血縁関係や家族構成などは、天界からの資料として配布されています。となると、妹や姉、もしくは幼馴染といったものに分類されることになりますね」
妹や姉と言ってしまえば、家族や友人にすぐにばれてしまう。
「となると、幼馴染か……中高大と長続きしている友達も少ないし大丈夫か……」
問題は容姿の説明だ。
「なあ、その髪と目はどうにかできないのか?」
ぶんぶんと首を横に振るスフレ。
「無理ですね。見習いということも一つの理由なのですが、天使が人を騙すような行為を行ってはならないと、天界で決められております」
あぁぁっと、頭を掻きむしり言い訳を考える。
「じゃあ、外国人の知り合いとかでいいや」
スフレを納得させ、誰に関係を聞かれてもいいように筋を合わせる。
「それじゃあ、外国人って訳だから人見知りで日本語がよくわからないってことでいいか?」
「はい、構いませんよ。でしたら人前では内気な少女を演じた方がよろしいでしょうかね」
「いやさっき人を騙すのはだめって言ってたじゃねえか」
「いえ、それくらいの事でしたら問題ございませんよ」
たくましく頷くスフレ。そんなスフレに一つ提案をしてみる。
「なあ、スフレ。お前ってもしかしなくても料理とかできたりしないか?」
そう聞くとスフレは腰に手を当て自慢げに。
「ええ! もしかしなくても出来ちゃいますよ!」
おおー!と感心する。料理のできない男子大学生にとってはありがたすぎる言葉だ。
「じゃあ、さっそく今日頼めるか?」
「構いませんよ! じゃーさっそく行きましょう!」
「え、行くってどこに?」
「もちろん買い出しにですよ! どうせ、ろくに自炊もしていないから、食材も調理器具も揃えてないんでしょろくに」
まったくのその通りであるが、なにかむかつく。が、今は置いておこう。顔に免じて。自炊すると決めたものの大学やバイトの関係で時間がなく、いつも適当にコンビニなどで済ませていた。
スフレの煽りをたんたんと聞いていたが、ある疑問が浮かんだ。
「そういった自炊や食の好みの事とかも、天界からの資料にあるのか?」
「いいえ、資料には主の事については詳しく記載されていません。そういった事をみつけ、主を手助けするのもこの修行の一つの項目なんですよ! ああ、自炊していないことに気づいたのは、キッチンを覗かせてもらったからですよ」
あ、うん。そうだね、コンビニ弁当などのプラスティック包装であふれかえっていますからね。自信たっぷりに微笑むスフレを見て、料理のことは――任せさっそく二人で買い出しに出かけた。
再び先のデパ―トの今度は食品売り場へやってきた。
休日のためか、夕方を過ぎた時間でもそれなりに人は多く、家族連れなども多く、遊園地などのテーマパークを予感されるような賑わいようであった。
「カートは俺が持つよ」
「あ、ありがとう……ございます」
カートを引き、天使の導きに従う。
「そういえば、キッチンを覗かせて頂いたときに包丁とまな板がない事は確認させて頂きましたが、お鍋やフライパンなどは……持っていますか?」
「ない」
「お、お玉やフライ返しなども……」
「ない」
「しょ、食器は……」
「ない」
「そ、それなら……お箸なんかも?」
「ああ、それならあるぞ……一つだけだが」
ちなみに俺が揃えたという調理器具は、炊飯器と湯沸かし器だけである。
「こ、この際ですから全部まとめて買いましょうか……」
俺の料理への関心のなさ、食への興味のなさに、あきれたスフレ。
空白の間に、少しため息のようなものが聞こえたような気がするが、気にしないでおこう。
「それじゃぁ! まずは調理器具から見ていきましょうか」
ため息を漏らし、あきれ顔を覗かすスフレに、了承の頷きをし、後についていく。
確かに俺は、スフレに料理ができないと言った。まあ、正しくは〝やらない〟なのだが。ただ、どうしてやらないのかと言うと、今のバイト先が飲食店であることが深く関わっていると自分なりに思う。なんていうのだろうか。バイトでやっているしいいかと思うこともあるし、家で料理をするということが、なにか家でも仕事をしている気がしてきてしまう。
ただ面倒なだけかもしれないが……。
ついでに言うと、バイト先はこのデパ―トにある。店の前を通りかかると、つい心拍数が上がってしまう。これは、みんなに共通していると思いたい……。
ま、そんなことは置いておいて。独り言を連ねているうちに、調理器具の売り場についたようだ。
「ん~、どれがいいかな……」
フライパンと鍋を両手に見つめるスフレ。
「今日は何がいいですか?」
多分献立
「んー。そうだなぁ、今日は特に暑かったし涼しいものが良いな……そうめんは夜には合わないか……冷静パスタ……とか?」
「へー、料理ができない割には意外にいいチョイスですね」
なにやらムカつく。少しバカにされた気分だ。
「じゃあ、夜ご飯は冷静パスタに決まりですね! 嫌いな食べ物や苦手なものってありますか?」
気遣いを入れてくれるあたり、情の優しさを感じる。
「いや、特にはないが強いてあげるとするなら……バナナと春菊、山椒あたりかな」
「なんか……似通いがないですね」
「そんなもんだろ、バナナに限っては離乳食の時から食べられなかったみたいだし」
「葉はともかく、山椒やバナナなどの調味料や果物になると、料理の幅が狭まりそうですね」
「七味とかならへーきだが、山椒だけの調味は苦手かな」
どうでもよくない話をしつつ、スフレは結局先ほど両手に持っていた鍋とフライパンをカートにいれる。二つとも赤色をしている。
「次は包丁ですね!」
「三徳とペティで十分だろ、それ以外は使う機会もなさそうだし」
独り言がスフレの歓喜の声によってかき消される。
「何ですかこれ‼ とぉ、ともっ、ともきさん見てください、これ!」
なにやら呂律が回っていない。
「これ!」
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