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男は地面に落ちているスコップを片手で拾い上げると、もう片方の手で良が落ちない様にしっかり押さえる。
良に案内され、男は良を家まで送った。
玄関先では良の母親が青ざめた顔で立ち尽くしていた。
「良! 何処へ行っていたの! どれだけ心配したか!」
「ごめんなさいママ、ごめんなさい……」
良は泣き出した。
「あの、有り難う御座いました。息子を送って下さって! お礼を……お礼をさせて下さい!」
母親は男に頭を下げて言う。
「いえ、お礼だなんて、通りすがりのついでですので。それより、息子さんを叱らないであげて下さい。何か事情が有ったのでしょうから」
「分かりましたわ。ほら、良、お兄さんにお礼を言わないと!」
良はグズグズ泣きながら「お兄さん有り難う」と言った。
「良君、危ないから夜に出歩いちゃあダメだよ。」
男は「じゃあ、僕はこれで……」と、良と母親に背を向けて去る。
「何て感心な方かしら! 良いお兄さんで良かったわね、良」
「うん!」
良も母親も、男の靴が土で汚れている事何て少しも気にしていない。
男の服のポケットに何が入っているかなんて事も、勿論気にしない。
二人はニコニコしながら家へ入った。
次ぎの日の話だ。
良と瞳は、秘密の場所で、穴の跡を見下ろしていた。
「ごめんね、ひとみちゃん、勝手に埋めちゃって……」
「仕方無いわよ。それに、この穴、だいぶ深くまで掘っちゃって、土が固くなって来ていたから、きっとアレ以上は掘れなかったわよ」
「そうだよね。ねぇ、次はどうする?」
探る様に瞳を見る良に、瞳はうーん、とうなって答える。
「穴を掘るのは……もう飽きちゃったわ。何か他の事しない?」
瞳の台詞に、良はホッとした。
昨日の事も有り、良はもう、穴を掘るのは止めたかったのだ。
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