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 手を伸ばしたまま彼女は埋もれていく。

 小さな影の主が彼女に気付く事は無かった。

 だから、穴は綺麗に埋められてしまった。

 小さな影の主は、丁寧に地面を踏み固めて、駆け足で公園を去った。


 夢の詰った穴の後……。


 そこに彼女が有る事は誰も知らない。


 ここには、彼女何て初めからいなかったのだと言ったらきっとその通りになるだろう。

 踏み固められた土の中から、彼女のスマートフォンから彼女が着信音にしていた、アメイジング・グレイスのメロディーが微かに響いていたとしても、きっと……。




 帰り道、目的を果たして疲れ切った良はスコップを引きずり、とぼとぼと歩いていた。

(疲れた……それに、凄く眠たい……)

 良は足を止めるとその場にしゃがみ込む。 

 体が疲れていたのに途中まで走って来たから体力を一気に消耗したのだろう。

(手が痛い)

 良は自分の手を見る。

 ずっとスコップを使って作業をしていた良の手からはもう力が抜けていた。


「君、どうした?」


 道の真ん中で、一歩も歩けずうずくまっていた良に声が掛かる。

 良がその声に顔を上げると、背の高い男が良を見下ろしていた。

 良は何も言わず男をただ見上げる。

「こんな時間にスコップ何て持って……何をやってたんだい? それに泥だらけじゃないか! 君、立てるかい?」

「立てない」

 男は良の言葉に頷くと、しゃがんで背中を良に向けた。

「ほら、家まで送るから、おぶさって!」

 良は言われるままに男の背中にしがみつく。

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