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公園の秘密の場所へと良は走った。
また場面は変る。
穴の中。
彼女は穴の中で両手で膝を抱えていた。
「助けて……助けてっ……うっ、うううっ……」
彼女の喉は叫び続けた為か、カラカラに渇いていて、助けを呼ぶその声はとても小さかった。
(どうして……どうしてこんな事に? 何故なのよ? 何で! 何で!)
一体何度彼女はそう思っただろう?
(何で? 何で? 何で?)
圏外の文字を示したままのスマートフォンの画面を赤い目で睨み付けて彼女は『何で?』を繰り返す。
(助けて!)
「たっ……助け……」
自分の声が誰にも届く事が無い事を悟りながらも諦める事が出来ずに、助けてと言おうとした彼女の声は、しかし、止まった。
彼女の耳に、ジャリジャリと公園の土を踏む音が聞こえて来たからだ。
(だっ……誰か!)
誰か助けてと言おうとして、彼女はハッとした。
(まさか、アイツが戻って来たんじゃあ……)
自分が不審者に追われていた事を思い出して、再び彼女は震えた。
腰を降ろしたまま後退り、土の壁に背中を押し付けて、彼女は声を殺す。
足音は彼女のいる、穴の方へ近付いている。
(ひいっ!)
叫びそうになるのを、両手を強く口に当てて押さえた。
ガサガサと草を掻き分ける様な音。
何かを……重たい何かを引きずる様な音。
嫌な予感をさせる不吉な音が彼女の耳を犯して行く。
(ひっ! ひいぃぃぃぃーっ! 嫌! 嫌! 嫌だぁぁぁぁぁ! 助けて! 助けてえぇぇぇぇぇぇっ!)
音が! 音が!
忌まわしいその音が穴の直ぐ近くで止まり、彼女の恐怖は最高潮に達した。
恐怖に震え、頭上を見つめる彼女の目に、月明りを背にした黒い小さな人影が映る。
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