「何でなの？　何なのよ！　この穴はぁぁぁぁぁぁぁっ！」

　彼女はパニックになっていた。

(嫌だ！　嫌だ！　嫌だ！　嫌だ！)

　彼女は壁に手と足を掛ける。

　しかし、手も足もズルズル滑るばかりでここを自力で登るのは不可能で有る事を思い知るだけだった。

　助けて！

　そう口にしようとして、彼女は思い出した。

　自分は追われている。

　今、助けを呼ぶ為に大きな声を上げたりしたら、あの男に聞こえてしまう。

　あの男に見つかってしまうではないか！

　彼女はそう思い、声を殺した。

　彼女は静かに息を吐き出した。

　耳を澄まし、回りの音を聞く。

　ざわめく木々の声、ブランコが風に揺られ呻く様に立てる音。

　そして、地面を踏むジャリッという音が彼女の耳に入る。

（アイツだ！　アイツに違えない！）

　彼女は震える体を自身で抱き締めて、恐怖に耐えた。

　彼女は微かに聞こえるその音に集中する。

　ジャリッ、ジャリッ、ジャリジャリと、公園中を歩き回る音。

　しつこく、しつこく歩き回る音。

　探しているのだ。

　彼女を……。

　その音は少しずつ、彼女に近付いて来ている。

　一歩、また一歩と、彼女の方へ。

　彼女が落ちている穴の方へ！

　ジャリッ！

　音を鳴らして、少しずつ、少しずつ、近付いて来ている。

　後一歩、もう一歩と彼女の方へ近付いて来ている！

　ジャリッ

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