9p
そんな二人を、沈みかけた太陽の光が淡く照らす。
「ねぇ、りょう君。宝物はこの缶に入れておこうよ」
瞳は足元に転がっている、今日おやつに持って来たクッキーの丸い缶を指さして言った。
「良いね! あっ、そうだ! ねぇ、コレに手紙を書いて一緒に埋めたら良いと思って持って来たんだ!」
良はそう言うと、ポケットから紙切れ二枚と小さな鉛筆二つを取り出す。
瞳は、良のその提案を喜んだ。
「素敵! じゃあ、大人になったりょう君に手紙を書く事にしようかな」
「じゃあ、僕は大人になったひとみちゃんに手紙を書くよ!」
二人はさっそく手紙を書いて、宝物と一緒にそれをクッキーの缶に閉じ込めた。
お互い、手紙の内容は秘密にして、大人になった時に二人で読み合おうと約束をした。
二人はまた、穴を掘る作業に興じた。
そして、夕闇が降りると缶を穴の中に隠して二人はまた明日と言い合って別れた。
何て素晴らしいんだろう!
何て楽しいんだろう!
今日という日は特に! 特に! 特に! 特に! 特に!
次ぎの日も、またその次ぎの日も、楽しい遊びが続けば良い。
そう思って二人はそれぞれの家へスキップして帰った。
その日の夜の事だ。
若い女が一人、町の中を全力で走っていた。
彼女の顔は恐怖で凍り付いていた。
走る彼女の後ろを、男が一人付いて来ていた。
「助けて! 助けて!」
彼女は大声でそう叫んだが、その声は夜の町に空しく消えていく。
彼女は知らない男に追われていた。
彼女を追う男の手にはカッターナイフが握られている。
「嫌っ! 嫌っ! 嫌だぁぁ! 助けて! 誰か! 誰かっ!」
誰にも届かない声を上げ、彼女は走り続ける。
彼女を追う男も、少しの疲れも見せないで彼女を追って走る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます