Tips8 怪異を知る者
「……そういえば」
ぼくはユエにつれられながら、なんとなしに声をかけた。
「きみにまつわる話をいくつか収集したよ。これらは果たして載せてもいいのかな」
「僕にまつわる話?」
ユエが片手を出すので、ぼくは一瞬躊躇しつつも、当該のページを開いて差し出した。歩きながら読むつもりなのだろうか。
「いくつかの話に出てくる人物が、まるできみのようだと思ってね。思わず抜き出して、あとのほうに回しておいたんだ。それが溜まっているのがそのあたりだよ」
「そんな話、よくあることだろう」
言いつつも、ユエは手帳を見ながら、器用に歩いていく。前が危ないと思ったら言おうと思ったが、まるでもうひとつ目があるようにすいすいと歩いていった。
ぱらりぱらりとその間にもページがめくられていく。
器用だ。
「ふうん。抜き出して、コレなのか」
「どういう意味だ?」
尋ねてみたが、すぐにもしかしてこれかという意味を思いつく。
「ああ……八話くらいしか無いってことかな。本当はもう少し集めたかったんだけどね。いくらなんでも、同じ人物を連想させる話が続くのはまずいだろう。それに、あとからもう少し……」
「もっと集めて、後から話はばらばらの順番にするんじゃなかったのかい」
「うん? ……ああ、そうだった。そうするよ。イニシャルにも直さないといけないし」
「そうだな。それが良いだろう」
ユエはしばらく手帳を見ていたが、やがて微妙な表情で手帳を返してきた。
どこかその表情は冷たさを感じた。
二人で黙ったまま道を歩く。
「……何か怒らせてしまったかい?」
「何を?」
けれども、ユエは普段と変わらないように感じた。
「……あれはきみなのか」
時にアドバイスをし、時に解決を請われる者。
見た目が良く美男子で、こんな口調で喋る者。
手帳には書いていないが、それらの特徴はユエそっくりだった。しかしそうなると、ユエはいったい何者なのだろう。
怪談どころか怪異そのものに精通し、請われれば相手が誰であろうと手を貸すが、相手が堕ちていくのに任せることもある。
「……さあ。どう思う?」
ユエはひどく面白そうに、にたりと笑っただけだった。
「もうすぐ着く。そこが目的の――世見神社だ」
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