雨先


 坂の上にある玩具屋にきてからどのくらいたったのだろう。


 平日の昼間など人もあまり来ずいつも通り店の中で晴名はぼけぇっとしていた。

いつも目の前にある玩具たちは同じで面白みは無い。


「なんでアタシはここにいるんだろうな」


 プッシュキルト。自分の名前をつけられた店。

最初は恥ずかしくて嫌だったけど今やもう慣れた。

それなりに儲けは出てるし生活は出来ている。

あとはいつも一緒にいる人がいれば、相手がいればもう少しいいのになと思いながらボトルのジュースに口をつけた。


「このジュース美味しい」


-


押衣晴名おしいはるなさんのことが好きです!」

放課後に同じクラスで隣の座席の男子に声を掛けられて、なんとなく一緒に下校した途中でそう言われた。


「ふぇ」


変な声が出たのが自分でも分かった。

隣の男子はそれを気にせずに真面目な顔で話を続けた。


「前から可愛いと思っていて表情も凄く好きでどうにか言えないかなと思って」


「なんなのそれ。告白ってやつ?」

「うん、そうかもしれない」


男子は恥ずかしそうに言った。


「そっか……ありがと」

晴名は小さく呟いた。頬と耳が熱くなっていくのが分かった。


-


 そういえば最初はそうだったなと思い返していた。

あいつのほうから私に近づいてきたっけ。

その後よく遊ぶようになって、気付けば自然と付き合うようになっちゃったんだね。


「あいつ、どこをほっつき歩いてるんだが」


ドアの外を見ると雨がぽつぽつと降り出してきた。


-


「やばい、雨が降ってきた。傘持ってない」


朝の天気予報の通りだったかと駅の南口で一人ガッカリしていた新松法あらまつほうの後姿を見かけた倉尾巴積くらおはつみは勢いよく近づきとんとんと彼の肩を叩いた。


「つみちゃん!?」


法は驚いた。

まさか彼女がここにいるなんて想像もしていなかった。


巴積は自分の持っていた傘を広げ、法の腕をぎゅっと掴み中に入れた。


「にひひ!」

巴積のしてやったり顔。


 一人用の傘の中で体を寄せ合う。

これが青春ってことなのかなと思いながらそうしてくれた彼女に「ありがとう」と言った。

もう一度「にひひ」と笑った巴積は先に一歩を踏み出し、それに付いて行こうと法も続けて一歩を踏み出した。


雨はまだ降り続いている。

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