第3話『 Loneliness 』
医師の
以前行っていたであろうサイクルを
他人の
まるで
両親とはそれからしばらく
そしてその
いまの
なにも自分の
だから
でも誰とも話さないなんて生きていないのと同じだ。退院して1ヶ月、どこへいっても口を開かなくなった心は余計に
こうして
だからいま、目の前に立つ少女が誰なのか、翠は
「えっと……あの、誰でしたっけ?」
知り合いだろうか。クラスメイトにこんな
それに彼女の着ている制服、あれはうちの学校のものじゃない。
入院中は面会謝絶で退院もすぐだったから知り合いの顔は知らないし、その後も学校と家の往復でロクな外出もしていない。
だからそれ以外の知り合いなんてさっぱりだ。ましてや、他の学校の子なんて検討もつかない。
「ミドリ……? どうしたの」
さっきまで嬉しそうだった女の子の顔が見るみる心配の色に変わる。その表情の変化に罪悪感と申し訳なさを覚えながら、けれどもどうしようもないという
「———ごめんなさい。わたしはあなたが誰なのかわからないんです……」
一呼吸おいて、淡々と事実を
これこそが翠の
「あ、そっか……そうだよね……。話には聴いていたけど、本当に忘れちゃってるんだ……」
当然の困惑にいまさら同情はしない。ミドリの頭はすでにこの場をどう切り抜けるかということに
そんなミドリの尻目に、数秒考えこんだ様子で顔をしかめていた少女だったが、「よしっ」と小さく
人懐っこそうな
「はじめまして……になるかなっ、私は
前髪を指で
『翠』という単語が自分の名前を指すことに数秒要した。名前で呼ばれるのなんて久しぶりだった。
それに思ったよりも彼女が取り乱さなかったのが意外で、内心驚いていた。
深々とお辞儀する律儀さに、少なからずどぎまぎしてしまう。
ほんのりと血色の良い口元を緩ませる藍は、以前私の親友だったそうだ。残念ながら彼女のことも当然さっぱりで、それを聞いて翠は会話するのが微妙に辛くなる。
「……ごめん、まだ顔と名前が一致しなくて」
「そっか……。でもっ、これからまた仲良くしていけばいいよ、お互いに」
肩を落としてもすぐに微笑みを取り戻した
「ほんとうにゴメン……」
「あわわっ、べ、別にそういうのじゃなくて……。ただミドリが元気ならそれでいいよ!ていうか。まあ、その……えと——とにかく! ミドリは今のミドリでいいんだよ」
「え? あ、そうかな……」
「そうだよ!」
なんだろう、天使かなこの子。抱き締めたい。
『今の翠』。そんな言葉ひとつに救われた気持ちになってしまう自分がなんだか馬鹿らしい。
「……ありがとう」
素直な声で他人を見つめる。それは目覚めて以来はじめてのことだった。
「ううん、いいの。それより迷惑だった?」
「どうして?」
「だって、……」
黒くて大きな目が胸に刺さる。
星空みたいな
「大丈夫、全然迷惑じゃないよ」
かつての親友に、かつてしていた笑顔で応える。
ぱっと顔を明からげるアイに少しだけ目がうるんだ。変な気持ち。嬉しいのに胸がしめつけられてるみたい。
「どうしたの?」
同年の少女から目をそらして、川底に目を
なんでもないよ。
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