K.痣(15分)
Kさんの近所には、父一人子一人で暮らす親子があったという。
「大層仲のいい親子でね。男の子の方は小学校に上がる手前くらいだったかな。よく近所を散歩してるのを見かけたのよ」
しかしある時、運転手の不注意でその子が撥ねられてしまったという。
「お父さんと手を繋いでて、一緒にトラックと電柱との間に挟まれて。お父さんの方は一命を取り留めたけど」
子どもは即死だったという。
「それからのお父さんは見てられなかったな。すっかりしょげかえって、とぼとぼと。買い物なんかは行ってたみたいだから、ちゃんと生活はしてたんだろうけど」
抜け殻のようだったという。
しかし、しばらくしたある日。
「前みたいに、ニコニコしながら歩いてるの。立ち直ったって言うのも変だけど、もう大丈夫なんだなと思って話しかけたら」
息子が帰ってきたというのである。
「あぁ心が壊れちゃったんだな、と思ったけど。言葉はしっかりしてるし、よくよく話を聞いてみるとどうも違うらしいのよ」
そのお父さん曰く、毎日生きる気力も湧かないままに暮らしていたが、鬼の泣く夢を見た翌朝。子どもと繋いでいた側の手に、小さな手形の痣が浮かんだのだという。
「見せてもらったら、確かにしっかり指の形もわかる手形の痣なのよ」
〈今も手を引いてやってると思えば、親として恥ずかしい生き方はできませんから〉、と。そこに子どもがいるものと思って暮らすようにし始めたのだという。
「ごめんなさい。怖い話ってリクエストだったのに何か良い話になっちゃったわね」
構いません、と答えた。
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