P.斜めのあわせ鏡(10分)

オカルトにハマっていたPさんは、かつてあわせ鏡を作ったことがあるそうだ。それも深夜に。

「でも小さい手鏡二つだとうまく行かなくてね」

やってみればわかるが、あわせ鏡を作っても鏡が小さければ、覗き込もうとする自身の影に隠れて奥が見通せない。

「だから、斜めのあわせ鏡を作ったの」

「斜めの?」

Pさんの話によれば、60度ほどの角度になるように鏡同士を合わせると、それは自身の顔が5つに増えて見えるらしい。

「でもそれって、本当のあわせ鏡じゃないから」

それぞれの顔はてんで別の方を向いている。

「まぁダメだろうな、と思いつつ、一応深夜まで待ってみたの」

「なんか見えた?」

「私の顔以外には何も」

Pさんが聞いた噂では、前世の顔が見えるとか、悪魔が肩に乗るのが見えるとか、そういったたぐいのものを期待していたらしく、その結果にはがっかりしたのだという。

「でもね、片付けようとした時に気付いたの」

映っていた5つの顔すべてが、こちらを見ていた。

「私のほうが顔をいくら動かしてみても、向こうは無表情のまま、こっちを凝視しててね。自分の顔ってよく見れば不気味じゃない? なんだか怖くなっちゃって」

そのまま鏡を片付けてしまったという。

「それで……、それから何か不幸な目にあったりした?」

「全然。だから私、今でも一人暮らしが寂しくなると、たまにやるのよ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る