兎人トールと喋るペルソナ
ミヤビャカ
第1話‐落ち零れた者
空には太陽が浮かんでおり、雨なんか一切降ってなどいなかった。
だけどボクは、全身ずぶ濡れで家に向かって歩いていた。
体中にかけられた水が、体毛の一本一本に絡みついて重く感じる。
そんなボクを見る街の人の反応は、酷く残酷だった。苦しむボクを見て笑っていた。
仮面の上からでも、解るほどのにみんなはボクを見下していた。
ボクが何をしたというのだろうか? 何故こんな目に合わなければならないのだろうか?
ボクは仮面の下で泣いていた。
ボクは……泣き虫だ。
解っている。ボクが虐められる理由。
ボクは何もしてないのだ。ボクは何もできないのだ。
ボク達獣人は仮面を付けて生活している。それは決してオシャレの為ではなく、獣人は仮面を付けることで潜在能力を発動させることができるからだ。
つまりこの世界は、能力社会。能力が無い存在は異質とされ、見下し見放される。
そしてボクには一切の能力が無かった。
ボクには潜在能力というものが、存在しなかった。
本当に珍しい存在らしい。だがしかし、珍しいといっても一切の価値が無い存在だ。
能力が存在しない自分にとって、この世界はあまりにも生き辛いものだった。
「ぐすっ……あぐっ……」
惨めだ。とても惨めだ。
泣いたところで何も変わらないのが、本当に惨めだ。
泣かなくても何も変わらないのが、本当に惨めだ。
何をしても、何もしなくてもボクは無能のままである。それが本当に惨めだ。
そしてこんな姿でボクは家に帰りたくなかった。
絶対に妹に何か言われるに決まっている。馬鹿にされるって決まっている。
ボクの居場所なんてどこにもない。能力が無い存在は、親にだって見放される。
どうして能力が無いのか? ボクが知りたい。
お前は頑張ってなどいない。じゃあ、頑張れば良くなるの?
お前には失望した? ねぇ、ボクに何を望んでいたの?
苦しいよ。どうしてこんなにも苦しいの? 生きるのってこんなにも苦しいことなの?
そんなことを考えながら、ボクは歩いた。
だけど家に向かって歩いたのではない。山に向かって歩いて行った。
太陽は沈み、空には二つの月が浮かんでいた。
赤い月と緑の月。そしてそれらから広がるように、小さな星たちが輝いていた。
ボクは落ち込んだ時はいつもこうやって星を見る。1人静かに星を見る。
やはり夜空というものは綺麗だ。音もない時間に、孤独に空を眺める。日の照りもなく、冷たい夜風が体毛を撫でていく。それが凄く優しくて、気持ちが良い。
この時間がボクは好きだ。
だって、この孤独な時間を誰も邪魔することはないから。
学校にいるときは、ボクは孤独なのに孤独にさせてもらえない。
誰とも共存できないのに、誰も共感してくれないのに、共生することを強制される。
同じ生き方なんて出来ないのに、同じ行き道を示されて、罵倒される。
ボクは1人なのに、独りにさせて貰えない。それがとても辛い。
ボクは独りが好きなのだ。
ボクが誰かを解ることが出来ないように、誰もボクのことを解ってくれない。
それなら、本当の意味で1人にして欲しい。そんなことを願いながらボクは星を見る。
そんなときに、ボクはふとこんな言葉を思い出した。
「流れ星に3回同じお願いをすれば願いは叶う……とかそういう伝説。あれって、本当に願いが叶うのかな?」
流れ星は簡単には見えない。
特に街のように松明が炊かれている場所では、空の星の光は見えにくく当然流れ星だって見つからない。
でも、この場所なら夜空が良く見える。流れ星だって見える。
伝説は伝説だ。伝えられた説には信憑性なんかない。それでもボクは、流れ星に願いを寄せてみようと思った。
でも、どんなお願いをすればいいのだろうか? 願いに悩んだ、その瞬間だった。
「あっ!!」
空がキラリと光を発し、夜の暗闇に線を描いていった。
流れ星だ。星が流れている。凄く速く流れるその光を見て、ボクは願いを言おうとした。定まってもいない願いをとにかく言おうとした。
でも、その前に違和感を感じた。流れ星の流れに違和感を感じた。
「え? あ? えっ!?」
流れ星が、向かってくる。
光がこっちに向かって飛んでくる。
流れ星ってどこに落ちているのだろう? そんな疑問を抱いたことがあった。
だけど、星が落ちてくるということは落下した場所は大きな被害を受けるに違いない。そう考えていた。
でも、流石にその星が自分のところに降って来るなんて思ってもいなかった。
「わっ、わっ! わぁあああああああっ!!」
ボクは思わず走り出そうとした。流れ星から逃げようとした。でも、流れる星よりもボクの脚は早くはなく、流れ星はボクの足元に着陸し、その土を爆発させた。
そしてボクもその爆発した土に巻き込まれて、流れ星の着地点から20mほど離れた場所に吹き飛ばされた。
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