第9話 これからのプロローグ

大学にあるカフェテラスに僕は腰掛け、アイスコーヒーを飲みながら小説を読み進める。

しばらくすると辺りが騒がしくなる。見れば、長い黒髪が風になびくのが見えた。


「やあ、玲人君」


「こんにちは、悠美さん」


「待たせたかな?」


「いいえ、今来たところですよ」


「ふふっ、そうか。それで、大学は慣れたか?」


「全く。常に慌ただしくやってる気がします」


「まあ最初の1年はそんなもんだろう」


そう言って、悠美さんは小説を取り出し、読み始めた。大学ではこうして昼には会っているものの、イチャコラは一度たりともしていない。

人目のある場所で、悠美さんの可愛さを見せたくないからだ。


「玲人君、今日家に来てくれないか?」


お互いしばらく本を読んでいた時、悠美さんからのお誘いがかかる。


「いいですよ」


「ふふっ、久しぶりに可愛がってくれ」


「まーたそういう言い方する…誤解されますよ」


「事実だろう」


「そうですけどね?」


「…玲人君は後悔していないか?付き合っている事」


「悔やむ理由が見当たらないですよ。どうしたんですかいきなり。そのままでいる方が悔やみますって」


「…そうだな」


「そろそろ昼が終わりますね」


そう言って、本を片す。悠美さんもそうだなと相槌を打って本を片した。


「…悠美さんは、後悔してないですか?」


「幸せ過ぎて、そんな余裕がないよ」


そう言って、可愛らしく笑った。

変化を求め、勇気を振り絞って、告白して、その結果が今の幸せならば、僕は世界一幸福だと言っても過言ではないと思った。

変化を恐れてはならない。気持ちを偽ってはならない。それらは単に逃げる口実でしかないのだから。

そして、考えることをやめてはならない。物事には人の数だけ答えが存在する。大した答えじゃなくても、立派な答えだ。合っていなくても、答えを自分で導き出すことが重要なのだ。

まあだからって、変化に貪欲過ぎたり、考え過ぎて周りが見えなくなったりするのはどうかと思うから、そこは気をつけないとだな。

でも、少しなら。


「好きですよ」


耳元でそう囁き、軽く唇を触れさせる。勿論、悠美さんの唇に、だ。

それに対して悠美さんは僕の脛を蹴り、不意打ちは卑怯と言わんばかりに僕を睨む。そして。


「ずるいじゃないか。私の、愛する人」


と言って、笑ってくれた。

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恋愛倫理研究部 海風奏 @kanade06mikaza

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