第3話 活動記録②
岡原先輩の件から2ヶ月。6月の中旬のとある日の昼。
僕の目の前には1人の女の子が立っている。すごく小柄な女の子が。
恐らく身長は140を超えていない。
「せ、先輩…その、手伝って、頂けませんか?」
「うん、勿論」
そう言いながらも、相談部でもお手伝い部でもないんだけどな、と思う。まあ致し方ないだろう。
「えっと、名前と学年を聞いてもいい?」
何も言いだす気配がなかったので、仕方なくこちらから声をかける。するとびくっと反応してからこちらを見た。
「い、1年の
「僕は2年の
「は、はい。放課後、またここに来てください」
「ん?うん。わかった」
流石にいきなり過ぎたかな。そう思い、ひとまず教室へ戻った。
***
放課後。僕は宮野さんに言われた通りに昼と同じ場所で本を読んで待っている。
「お、お待たせしました」
と声がかかったので本をカバンに入れ視線をあげる。すると、学校指定ジャージを着た宮野さんがそこにいた。
「早速行きましょう」
「お、おう」
そそくさと歩く宮野さんについて行くと、そこはグラウンド。宮野さんの視線の先にはサッカー部が練習をしていた。
「宮野さんの好きな人って、誰なの?」
「ゴールキーパーの、
「試合で見せた数々のスーパーセーブ。普段はおっとりとしているんですけど、試合となるとキレッキレでかっこいいんですよ!」
この子、熱意がすごいな。今回僕いるかな。
「それで、僕は何をしたら良いのかな?」
「何とかして、2人きりの時間を作ってくれませんか?」
おおう、中々にハード。だが、断ることができないし、やるしかない。
「わかった。何とか頑張るよ」
「あっ、ありがとうございます!」
***
「という訳なんです。どうしたら良いですかね先輩」
『と、言われてもね。まずその彼と玲人君が接点を持たなければならないだろう?』
「やはりそこですよね」
現在報告ついでにアドバイスを先輩に求めたが、普通のことしか言われなかった。あまり期待をしていた訳ではないので問題はない。
「わかりました。トライしてみます」
『ああ、頑張ってくれ。私はもう寝るぞ?』
「あ、はい。夜遅くまですいません。お休みなさい」
『ああ、お休み』プツリ
仕方ない。無茶をしてやろうではないか。
後日、朝練が終わったのを見越して接触を図る。
「凪田君」
「ん?えっと、誰ですか?」
「僕は2年の橘玲人です。ちょっと、話があって」
僕はここから、たわいのない会話に繋げた。突然他人に会って欲しい人がいると言われても、変に警戒してしまうだろう。まず彼と僕が少しでも仲良くなる方が都合が良いのだ。
そんな感じでそれを5日ほど続けるとかなり親密になれた。彼がフレンドリーなのも幸いしたと言える。
そろそろ良いだろうか。なるべく、自然な流れで。
「凪田君」
「ん?どうした?」
「好きな人のタイプとかある?」
「おお、いきなりだな」
「ふと思ってね」
「そうだな、橘が言ったら言うよ」
「それは言わざるを得ないな」
彼の好みによってアプローチの仕方を変えた方が良いだろうし。
とりあえず頭に浮かんだ人物の特徴を言った。
「歳上がいいかな。和な感じの。でもちょっと抜けてる所も欲しいね」
「なるほどな。じゃあ俺と真反対だな。歳下の方が良いんだ。宮野とかがタイプかな」
……え?
「そ、そっか。じゃあ、会ってみる?」
「ん?どういうことだ?」
「2人きりで、会ってみるか?」
そう言うと凪田君は目を見開いて、詰め寄ってきた。
「本当か?それは是非頼む。ああでも流石にいきなり2人はな。橘も来てくれ」
「あまり干渉はしないからね。日時はどうする?」
「んー、今週の日曜が部活休みだから、そこでどうだろう」
「わかった。宮野さんに聞いてみるよ」
「ありがとう、決まったら言ってくれ」
「うん。またね」
そう言って凪田君に手を振る。クラスが違うから話すのはここまでだ。
さて、意外な展開だな。問題となるのはこの事実を伝える方が良いのかという点だ。
いや、人の気持ちを他人が伝えるのはダメだな。ここは黙っておこう。
特に何も伝えないで予定の有無をメールで聞くと、問題なく行けるとのことだったので、2人に10時頃にショッピングモールで待ち合わせようと言った。
ここまでは、順調であった。
「…」
「…」
当日。いざとなると2人ともガチガチに緊張している。そして僕はと言うと、2人を尾行していた。マスクやサングラスを付け、お腹をさすりながら。
僕は今日、2人に腹痛で来れないと伝えた。これはわざとではなく、マジで。元々来ずにアドバイスだけするつもりだったのだが、まさか本当に行けなくなるような事態が起きると思っていなかった。
本当は家のトイレに籠っていたいが、丸投げするのは気が引けるので無理にでも出てきたと言う訳だ。
何かあればメールをしてくれとそれぞれに言ってあるし、大丈夫だろうとは思うけど。
「立ち止まっててもあれだし、行こうか」
「そっ、そうですね」
ぎこちないのは仕方ない。宮野さんがどれだけ頑張れるか。もしくは凪田君が頑張れるかにかかっているな。
「あ、あの!私行きたい所いっぱいあるんですけど、付いてきてくれますか?」
「ああ。任せてくれ」
それから2人は服を見て回ったり、ゲーセンに行ったり、ご飯を食べたりと、様々な場所を行き、仲が深まったように思う。
宮野さんは距離をできるだけ詰めて歩いたり、ボディタッチを少しやってみたりと、一生懸命可愛らしくアピールしていた。その光景はとても微笑ましいものだった。
そして帰り道。
「あの、先輩」
「ん?どうした?」
まさか、告白するつもりなのだろうか?流石にまだ早いのではないか。
「えっと、その…」
恥ずかしさからか、宮野さんは俯く。凪田君はそれを心配そうに見ていた。
「なあ宮野。もしまだ言えないようなら、俺が話ししてもいいか?」
「ッ…は、はい、どうぞ…」
彼の顔を見て察する。ゴールキーパーをしている時よりも真剣な眼差しをしていた。
「宮野、俺は君に…一目惚れをしてて、今日、もっと好きになった。まだそんなに多くの時間過ごしていないけど、少しづつお互いを知っていけばいいと、思ってるから、俺と付き合わないか?」
意外と言えば、意外だった。だが、こうなるのは必然であったのかもしれない。僕が介入する前から、きっと彼女は空振りをしつつアピールしていたのではないか。
ぶっつけ本番で上手くアピールできる人はそうそういないだろうし。その甲斐があって彼も意識をしていたのだと思う。
「ッ…わ、私も!凪田先輩のこと、好きです!」
「ってことは、いいのか?」
「はい!付き合いましょう!」
そう言って、宮野さんは凪田君に抱きつく。微笑ましい光景だった。
もう僕は必要ない。だから帰ろう。お腹痛くて限界だとか、そんなんじゃなくて本当に必要がなくなったと感じたから帰るのだ。
…本当に。
その日の晩に、2人からメールが届いた。2人とも付き合えたと言う内容だった。僕は2人におめでとうと送り、宮野さんには追加して送る。
「『恋愛』ですかね」
と、メールが返ってきたのはこちらがメールをしてから5分も経っていなかった。
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