邂逅
「ダン!」
ダンを出迎えたのはセニーリだ。
「こっちだ、今は村長が傭兵団の隊長の相手している」
「例のガキは」
「俺が見たときはいなかっ……、おいおい」
ずんずんと歩くダン。村の中心にある広場につき視線の先にいたのは、人垣から頭一つ飛び出ている男の姿だった。
「――ってことは村に特には異変はないと」
「はい、そうなります」
男はダンほどではないが大柄で、ボサボサの髪とひげが特徴の人間だった。見るからに荒っぽい、傭兵らしい見た目である。
それはモグワナとなにやら話し込んでいたが、ダンの接近に気がつくと顔を上げ、そして目を見開いた。
「なっ、グリア人!」
「でかいぞ、なんだあいつは!」
傭兵団のリーダー、ラングルが声を上げついで横にいた団員も驚いた。
それらは戦闘慣れしているものらしく、即座に武器を手に取り警戒態勢をとる。
しかし慌ててモグワナが止めに入る。
「待ってください、あの人は違います……!」
「なにがだ、なにが異常なしだ! あんなやつを匿っていたのか!」
団員が詰め寄る。
「待て!」
ラングルは大声で静止をかけた。団員たちもピタリと止まり、ダンとの間に緊張が生まれる。
ダンは平静を保ったまま、自然体で声を出す。
「リュミルというのはどいつだ」
「……なに」
ラングルの顔が険しくなった。
「お前が、なんだったか……」
「ラングル」
後ろから声、ミィが追いつき説明する。
「こうなるとは思ったが、まったくグリア人はどこでも嫌われ者だねえ」
「お前は?」
ラングルはダンに注意を払ったままミィを見る。
「あたしはミィ、そんでこいつがダン。あんたらはラングル傭兵団で間違いないね?」
ミィも臆せず質問する。
「……そうだ」
「こいつがお前のところの坊やに会いたくて、ここまで追ってきたんだよ」
「どうやってこの場所を」
睨みつけるラングル。
「ペッシュという男は知ってるかい?」
「……ああ、金持ちの遊び人だろう」
「おおむね合ってるな。そいつから仕入れたのさ」
ダンを置いて話が進む。ダンが話す度にラングルたちは緊張し、会話どころではなくなってしまう。なのでミィが橋渡しをしている。
だが黙っているだけなのも堪らず、重ねて問いかけた。
「で、リュミルは?」
「会ってどうする」
「もちろん、戦う」
なにがもちろんなのか、貴重な戦力であるリュミルを分けのわからぬ男とぶつけることにためらうラングル。しかしそれはリュミルの望みとは真逆の選択。
考えあぐねていたラングルだが、そうしている間に渦中の人物がやってきてしまった。
「ぼ……、私になんの用ですか」
「リュミル……」
「お前が?」
ダンの前に現れたのは聞き及んだ通り、いやダンが想像していた容姿よりさらに小柄な、未熟な少年だった。
しかしそれは少しカールのかかった、輝くような金髪をなびかせ凛とした佇まい。確かに他とは一線を画す雰囲気を放っている。
「私を呼んだようですが」
「リュミルで間違いないな」
それは洗練された所作で腰を曲げて挨拶をした。
「リュミル・セーレンです」
「? フェリミーアでは」
顔を上げたリュミルは目をパチクリとさせて、やがて恥ずかしそうにはにかんだ。
「お詳しいですね、ええ以前はそうでした。ですが今はもうフェリミーア家とは関係ありません、ただのリュミルという一剣士に過ぎません」
「へえ、剣士とな」
「そうですが?」
首をかしげる様には年相応の柔らかさがあり、王都の婦女子などは心をときめかせるだろう。
だがダンにはどうでもいいこと、その言葉を嬉しそうに聞くと剣を引き抜きリュミルに突きつけた。
「お前に決闘を申し込む」
リュミルは面食らったように顔をひきつらせた。
「そんな……、ぼ、私があなたになにか失礼なことでも」
「いい目をした剣士に、戦士が惹かれるのは普通のことだろ?」
「戦士とはあなたのことですね?」
うなずくダン。リュミルがラングルをうかがう。しかしラングルは黙って見つめ返すだけだった。
「……そうですね、私も剣士の端くれ。無礼にも突きつけられたならば、剣で返す他ありませんね」
ダンが凶暴に口角を釣り上がらせて嗤う。
「いいぜ、やっぱり他のやつとは違う。俺の目を見てそれを吐けるんだからな」
「おいリュミ――」
止めようとした団員がラングルに引き戻された。
「な、団長!」
「あいつの好きにさせてやれ」
「だけど……」
「それがあいつとの約束だからな」
名門貴族の生まれであるリュミルにとって、傭兵とは決してよいイメージのものではなかった。いかに彼が実力を重視する性格でも、周りの影響からは逃げられないもの。
帝国軍で持て余されくすぶっていたリュミルを見出したのはラングルだが、当初は勧誘をまともに聞いてはいなかった。
そのリュミルを揺るがしたのがラングルの一言、『お前の望むものを与えてやる』。それは競い合える強者。軍では貴族の出ということで、リュミルは実戦から遠ざけられていた。
より高みを目指すリュミルにとっては拷問のような時間であり、その心を見抜いたラングルに寄って半ば逃げ出す形で傭兵団へと入ったのだった。
いまだに帝国軍では逃げ出した臆病者と言われているが、今やどうでもいいことである。
そうして傭兵団で実績を積み重ねてきたリュミルはいつしか、たった一年で百人隊長の地位にまで上り詰めていた。
そのうちにラングルもリュミルのことを惜しむようになっていたが、実際にリュミルに敵う相手は現れていなかった。
「だがあいつは……、あのグリア人」
ラングルが村の外へ出ていく二人の後ろ姿を見つめる。倍はあろうかという白銀の髪のグリア人の体格、ひと目見ただけでわかる強者の風格。いままで見たこともないような威圧感はラングルも震えるほどだった。
「勝てよ、リュミル」
ラングルに出来るのは勝利を願うことだけだ。
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